ザ・クインテッセンス 2023年5月号
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 厚生労働省は,これからの歯科保健医療を取り巻く状況について,少子高齢化の進展や歯科疾患の罹患状況の変化にともない,形態回復を主体とした歯科治療から口腔機能の回復治療に需要がシフトすると予想している.8020運動の推進や国民の口腔健康への関心の高まりにより,8020達成者が5割を超え,高齢者の残存歯数は増加している.確かに,20年前と比較すると上下顎無歯顎患者の全部床義歯を新製作する機会は減ってきていると感じる先生は多いだろう.1980年代の米国の研究報告では,「今後,数十年間で歯の喪失が減少し続ければ,欠損補綴治療の必要性も減少するだろう」1と結論づけていた.しかし,2000年代の報告では,「歯の喪失と無歯顎者の減少は十分に立証されているが,可撤式補綴装置を用いた治療のニーズは増加し続ける」2とし,過去の推計は誤っていたと報告している.その要因として,高齢者人口の増加と平均寿命の延伸の2つを挙げている. 日本では,65歳以上の1人平均喪失歯数は6本を超え,85歳以上では17本を超える(図1).このデータの見方を変えると,65歳以上の高齢者で喪失歯をもつ人の割合は85%を超える.歯を喪失した高齢者の多くは,何らかの補綴装置を装着することによる口腔機能の維持が必要で,依然として多くの高齢者が可撤性義歯を装着している(図2).確かに無歯顎者の割合は減少し,全部床義歯装着者の割合自体は減少していくかもしれないが,部分床義歯を含めた可撤性の床義歯の需要は,高齢者数が増加する間は増え続けるものと思われる. そこで本稿では,需要が今後増加すると見込まれる義歯治療のなかでも義歯修理に着目する.前編では義歯破損の原因と対処の考え方を,後編(6月号掲載)では実際の症例から原因を探索し,原因に対する修理方法を解説する.小林琢也/米澤 悠*Basics of Removable Denture Repairs : Understanding with Flow Chart54岩手医科大学歯学部補綴・インプラント学講座摂食嚥下・口腔リハビリテーション学分野*岩手医科大学歯学部補綴・インプラント学講座補綴・インプラント学分野連絡先:〒020‐0021 岩手県盛岡市中央通1丁目3‐27Takuya Kobayashi, Yu Yonezawaキーワード:義歯のトラブル,生体の変化,材料の変化the Quintessence. Vol.42 No.5/2023—1014特 集 1はじめに:これからの義歯の需要なぜ壊れる? どう対応する?フローチャートでわかる義歯修理ベーシック講座(前編)

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