混合歯列期に,上顎の永久犬歯がなかなか萌出しない症例がある.このような症例のなかには,犬歯の萌出方向や萌出位置の異常に起因して,隣在永久歯の歯根が吸収されるものがある1~3. 2020年度の明海大学病院矯正歯科の集計では,矯正歯科治療を開始した14.8%の症例で,犬歯の萌出方向や萌出位置の異常にともない,隣在永久歯への近接や歯根吸収が生じていた(近接のみで歯根吸収をともなわない症例も含む)3.重度の歯根吸収例では,10歳未満で永久切歯を抜歯しなければならない症例もあり,患児は学童期の頃から審美性や口腔機能に重大な障害をきたすことになる. 上顎犬歯の萌出異常に起因した隣在永久歯の歯根吸収は,無症状に進行し,患児が痛みや腫脹を訴えることは少ない.近年,学童期の1人平均df歯数は減少し,10歳では1.0未満と報告されている4.そのため,かかりつけ歯科医院で学童期の口腔管理を定期的に行うことが容易ではなく,上記のような歯根吸収が見過ごされやすくなっている. 犬歯の萌出異常に起因した隣在永久歯,とくに切歯の歯根吸収は,審美性や口腔機能の障害をもたらすだけでなく,患児本人やその保護者が歯科医療や歯科医院に対して不信感を抱く原因にもなりうる. 本稿では,このような問題を予防するための留意点を考えていく.Root Resorption of Permanent Teeth Caused by Abnormal Eruption of Maxillary Canines in Mixed Dentition102Naoto Suda, Au Sasakiキーワード:犬歯,歯根吸収,抜歯,矯正歯科治療須田直人*1/佐々木 会*2明海大学歯学部形態機能成育学講座歯科矯正学分野 主任教授*1,講師*2 連絡先:〒350‐0283 埼玉県坂戸市けやき台1‐1n-suda@dent.meikai.ac.jpthe Quintessence. Vol.42 No.5/2023—1062若年での永久歯抜歯の可能性も!?特 集 3混合歯列期の上顎犬歯の萌出異常に起因した隣在永久歯の歯根吸収はじめに
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