剥離3演者論202*大阪府開業 おだデンタルクリニック,*1東京都開業 むね歯科クリニック,*2滋賀県開業 浅田歯科医院,*3東京都開業 長嶋デンタルオフィス,*4岡山大学学術研究院医歯薬学域インプラント再生補綴学分野*代表連絡先:〒599‐8125 大阪府堺市東区西野472‐2‐1F文 セメント質剥離は診断が困難な場合があり,剥離が歯冠側で生じると限局的な深い歯周ポケットが形成される(図1,2)1ため,垂直性歯根破折と誤診されやすい.一方,根尖側で剥離が生じると,歯肉の腫脹や瘻孔の形成(図3a),そして根尖部周囲の骨吸収像(図3b)を呈し,根尖性歯周炎と誤診され奏功しない根管治療を繰り返し,結果として抜歯に至るといったことがまま起こっている2. セメント質剥離の発生機序はいまだ不明なことが多いが,疫学調査の結果から高齢の男性で生活歯の前歯部に多く生じており,発生原因として「加齢にともなうセメント質の肥厚」や「過剰な咬合力」などが関与しているのではないかと考えられているが,その根拠は乏しいともされている3.なぜなら,セメント質剥離の原因が過剰な咬合力であるのであれば臼歯部に多く生じるはずだからである.これには筆者らも理論的な矛盾を感じていた.そしてその治療方法は,破折片の完全な除去と根面のデブライドメントが推奨されている4が,ルートプレーニングを含むデブライドメントをどの程度(範囲,強度)まで行うべきなのかについてのコンセンサスは得られていない. そのようななか,筆者らは,歯根端切除術により摘出した歯根や,外科的に採取したセメント質剥離片の組織学的診断を病理医に依頼したところ,セメント質剥離に関する新しい知見を得た. そこで本稿では,この病理組織学的な所見の下,セメント質剥離の発生機序を再考し,そこに既知のエビデンスと筆者らの臨床経験を加えて,セメント質剥離の治療戦略について考察してみたい.the Quintessence. Vol.42 No.7/2023—1476Norimi Oda, Munekata Sasoh, Wataru Sonoyama, Hidekazu Nagashimaキーワード: セメント質剥離,病理組織学的評価,根面のデブライドメント, 垂直性歯根破折,根尖性歯周炎小田師巳*,*4/笹生宗賢*1/園山 亘*2,*4/長嶋秀和*3Proposal of Modified Treatment Strategies for Cemental Tears Based on Histopathological Findings44特 集 1はじめに病理が導く発生機序と治療戦略から紐解く組織切片セメント質
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