諸井英二奈良県開業 医療法人和光会 西長柄歯科診療所連絡先:〒632‐0063 奈良県天理市西長柄町449‐2 日本は世界でもっとも高齢化が進んだ国の1つであり,2020年には人口の28.4%が65歳以上となりました.厚生労働省の資料によると,要介護者の約9割は何らかの歯科治療または専門的口腔ケアが必要であるのに対し,実際に治療を受けたのは約27%というのが実情です.また,歯科医院は全国に約68,000医院あるなか,訪問診療対応の実績があるのは約13,000医院に過ぎません.さらに,「在宅療養支援歯科診療所」の数も,平成29年4月の段階でわずか9,763診療所しかありません.しかも現在は減少傾向にあるといわれています. 訪問歯科医療は,口腔状態の改善によって食事や会話などの生活機能を向上させ,介護スタッフや家族との連携により口腔ケアを支援して,誤嚥性肺炎を防止する,やりがいのある仕事です.数多いニーズに,なぜ歯科界は対応できていないのでしょうか. たとえば,訪問歯科医療を提供する歯科医師や歯科衛生士の数が不足していることや,移動や搬送に時間やコストがかかること,設備や器具が限られていることなどがその理由として挙げられています. しかし,果たしてそれだけなのでしょうか. 「訪問診療を始め,依頼があって何度か行ったがそれ以来依頼が来なくなった.だから,もうやめてしまった」という話を聞くことがあります.なぜ依頼が続かないのでしょう. われわれが日頃行っている外来診療と訪問診療の違いについて整理してみます.外来は,当然ですが医療の場です.受診のきっかけや受診先の決定,そして主訴の提示も患者完結で実施されます.歯科医師は,痛み,腫れ,食べにくさに代表される,患者さん自身が感じる不都合についてさまざまな医療技術を提供すればよいわけです. 他方,訪問はといいますと,訪問先は患者さんのご自宅であり,ご本人の生活の場.医療の場ではありません.また,受診のきっかけ,受診先の決定について,患者さん自身で行われることは少なく,その家族や他の専門職,ケアマネジャーなどによることが多いのです.主訴についてもご本人からの訴えというよりも,家族や他職種の視点からのものが多The Current Situation of Home Visiting Dental Care in the Super-Aging Society104Eiji Moroiキーワード:訪問歯科医療,認知症,多職種連携,まほろばthe Quintessence. Vol.42 No.10/2023—2258はじめに外来診療と訪問診療の違い超高齢社会における訪問歯科医療をめぐる現状
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