1982年2月に開業して間もなくのことであるが,筆者は,けがで抜けた歯を2本持って来院した小学校高学年の患者の歯を再植することなくそのまま帰宅させたことがあった.また,けがで折れた歯を躊躇せず抜髄して補綴治療を行ったことがあった.抜けた歯の第一選択は再植であり,破折歯のゴールは,歯髄の保存と破折片の接着またはコンポジットレジン(以下,CR)修復であることは,現在ではおそらく多くの歯科医師の認知するところである. しかし,1977年に大学を卒業した筆者の記憶では,外傷歯の講義は1秒もなかった.それが原因か,当時の筆者は外傷歯をどうすればよいかを知らなかったのである.そして,このような情報不足は,筆者に限ったことではなかった.大げさにいえば,日本も世界も外傷歯の治療に関して情報をもっていなかったのである.なぜなら,国際外傷歯学会が設立されたのは,1989年のことだからである.月星光博Past, Present, Future of Treatments for Traumatized Teeth30愛知県開業 月星歯科クリニック連絡先:〒497‐0050 愛知県海部郡蟹江町学戸6‐8Mitsuhiro Tsukiboshiキーワード: 外傷歯,トランジエント・アピカル・ ブレイクダウン,再植the Quintessence. Vol.43 No.1/2024—0030特 集 1外傷歯治療の過去,現在,未来はじめに
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