ザ・クインテッセンス 2024年2月号
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直接的な根拠骨吸収・CAL変化骨吸収(%/年齢)主な基準間接的な根拠修飾因子図1 歯周病の診断・グレード分類.歯周炎の進行度の診断において,喫煙と糖尿病(赤枠)の2項目が修飾因子に含まれている.バイオフィルム蓄積は多いが,組織破壊は少ない表現系喫煙糖尿病Grade A遅い進行5年以上なし<0.25非喫煙者糖尿病の診断無しGrade B中程度の進行5年で2mm未満0.25~1.0バイオフィルム蓄積と見合った組織破壊喫煙者1日10本未満HbA1c7.0%未満の糖尿病患者Grade C急速な進行5年で2mm以上>1.0バイオフィルムの蓄積以上の組織破壊(急速な進行や早期発症を示唆する臨床徴候)喫煙者1日10本以上HbA1c7.0%以上の糖尿病患者病の合併症として網膜症が発症しました. そして同時期に,口腔内では急性炎症による歯周膿瘍を形成しました.デンタルエックス線写真からは,急激な組織破壊が生じ,浅い歯周ポケットが一気に根尖付近まで深くなっていることがわかりました.これは高血糖による免疫力の低下や炎症の増悪が原因と考えられました(図2). 内科医との対診で血糖管理の強化をし,抗菌薬の投与の後,外科的な侵襲を最小限にした再生療法を行いました.1年後には破壊された組織の回復が得られたことで,歯の保存が可能となりました(図3). 本症例のように,糖尿病という“歯周治療に対する逆風”が吹いているなかで,どのような手を打っていくのが適切でしょうか.通常の治療と同じことをしても,その“逆風”の下では同じ成果が期待できるとは限りません.逆風に負けないアプローチを組み立てるためには,糖尿病の病態を理解し,そのうえで“歯周治療のどの治療法を活用するのが有効か”を考えなくてはいけません. 困難な症例であっても“敵(糖尿病)を知り,己(最新の歯周治療)を知れば百戦危うからず”なはずです.本企画の前編ではまず,糖尿病の病態を整理してその理解を促し,そのうえで次回(後編,2024年4月号掲載予定)は,有用と考えられる治療アプローチを症例とエビデンスを交えて説明していきます.歯周病の診断・グレード分類the Quintessence. Vol.43 No.2/2024—0293511)糖尿病は歯周病のリスクファクター 糖尿病は,古くから歯科疾患とのかかわりが指摘されてきました.2018年に米国歯周病学会と欧州歯周連盟によって,歯周病の新分類“ステージ・グレード制”が発表され,日本歯周病学会・日本臨床歯周病学会もその診断分類を採用しています1. そのなかで,グレード(歯周炎の進行リスク)を評価する際に,歯周組織の破壊に加えて評価項目として加えられているのが喫煙と糖尿病の2つです(図1).これは,歯周病を考えるときには“糖尿病について考慮すべき”ということを明確に示しています. それでは,糖尿病はいったいどのように歯周組織にダメージを与え,かつ治療後の治癒をも妨げるのでしょうか.そして歯周治療を成功させるために,どのようなストラテジーでの治療が必要でしょうか.2)糖尿病の悪化が組織破壊のアクセルに! 筆者(水谷)が,糖尿病が歯周病に与えるインパクトの大きさを痛感した症例を示します.患者は58歳の男性で,2型糖尿病に罹患しており,全顎的な歯周治療後に8年にわたってサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)を受けていましたが,血糖コントロールの悪化がHbA1c:10.2%まで進み,糖尿はじめに

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