the Quintessence. Vol.43 No.8/2024—1606 歯科臨床において,治療介入する場合は当然として治療後の長期予後の安定には“炎症と力のコントロールが重要”といわれて久しいが,顎口腔系に及ぶ“力の問題”に対しての明確な診断,評価,検証法といったガイドラインが存在しない現状がある. たとえていうならば,歯周病の臨床検査(例:EPP,BOP,細菌検査)に相当する力の問題に関する数値化された客観的な指標による重症度や難易度,リスク評価の提示や経時的な再評価といった科学的に行うべき日常臨床が根付いていないばかりか,多くのケースレポート中には,ほぼ皆無といえる. 図1は,上下顎の前歯が咬み合っていないことを主訴に,矯正歯科治療を希望して来院した患者である.一見して上下顎ともに両側臼歯部の頬側歯頸部に骨隆起を認め,下顎においては舌側臼歯部の下顎隆起が骨の膨隆として広範囲に存在し,診断用模型で明瞭に観察される(図2). パノラマエックス線写真(図3),側貌エックス線写真(図4)にて,下顎枝が短く短顔型であることから,咬合力が大きくブラキサーであると推察されるが,治療方針や治療計画の立案においてどのような点に留意すればよいのか,そして予後を安定させるために臨床家として共通認識しておくべき具体的な留意点や確固たる指針は示されていない. 図5は別の患者であるが,₅の冠脱離や全顎的な石井彰夫Analyzing the Quintessence of Forces Associated with Mandibular Movements for Comprehensive Clinical DentistryPart1. What Kind of Changes Do the Forces Cause in the Oral and Maxillofacial System?28岡山県開業 石井歯科・矯正歯科クリニック連絡先:〒703‐8275 岡山県岡山市中区門田屋敷2‐2‐10Akio Ishiiキーワード:生理的代償作用,機能的下顎運動,咀嚼筋活動特 集 1前編下顎運動にともなう力は顎口腔系にどのような変化をもたらすのかはじめに“力の問題”の本質を読み解き,包括臨床に生かす
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