ザ・クインテッセンス 2024年8月号
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the Quintessence. Vol.43 No.8/2024—162951(図2)は日本でもよく知られている名著であるが,以下のように記されている.「咬合面の主な役割は,もちろん食物の咀嚼であるが,それ以上に重要なのが,義歯を安定させる役割である」 ここで興味深いのは,咀嚼よりも安定が重要だと述べている点であり,全部床義歯という補綴装置においては,咬合接触で発生するベクトルがその装置自身の安定を左右してしまう大きな要因であることをわれわれに再認識させてくれているといえる. わかりやすい例を挙げると,上顎の総義歯症例において,臼歯部の著しい咬耗により前歯部の咬合接全部床義歯において,人工歯を緊密に咬合させる目的は何か? 「全部床義歯の咬合の役割とは何か?」と聞かれると,真っ先に思い浮かぶのは“咀嚼機能の回復”ではないだろうか? 無論,われわれは上下の人工歯がしっかりと接触するように咬合調整(図1)することで,食物の咬断や臼磨による効率的な咀嚼機能回復を目指している. しかしながら,義歯の咬合にはもう1つ,大きな役割があることを忘れてはならない.1つ,過去の成書を引用して解説したい.1933年のFishの書籍1図1 われわれは,図のように上下の人工歯がしっかりと接触するように咬合調整することで,食物の咬断や臼磨による効率的な咀嚼機能回復を目指している.全部床義歯において,このように人工歯を緊密に咬合させる目的は何なのだろうか?1.全部床義歯の咬合の役割

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