ザ・クインテッセンス 2024年10月号
8/9

*北海道大学大学院歯学研究院口腔診断内科学教室,*1北海道大学大学院歯学研究院歯科麻酔学教室,*2日鋼記念病院歯科口腔外科*代表連絡先:〒060‐8586 北海道札幌市北区北13条西7 現在,本邦は超高齢社会を迎えており,2025年には65歳以上の人口の割合が全人口の約30%に到達すると推測されている1.このような社会において,歯科医師には抜歯などの口腔外科処置をはじめとした包括的な歯科治療を安全に高齢者へ提供し,口腔機能の回復を図り,健康寿命の延伸に寄与する責務がある. 高齢者へ口腔外科処置を実施する際には,全身疾患や内服薬の影響,さらには骨性癒着などの手技的な難易度の問題を考慮する必要があり,実際,開業歯科医院において,抜歯などの歯科小手術を敬遠した対症療法のみが行われ,重篤な歯性感染症を続発する症例を多く経験している(図1). 本稿では,日常の歯科診療で実施する機会の多い歯科小手術に着目し,高齢者への歯科小手術に際して考慮すべき合併症ならびに患者因子について,筆者らの臨床研究や経験症例とともに詳説する. 歯科小手術のなかでも抜歯は基本処置の1つで,口腔外科領域においては最頻度の手術であり,古くから歯痛の原因療法となっている. 「抜歯を安全かつ確実に行うためには,歯の形態と歯槽内での位置や植立状態,顎骨の形態,神経や血管の走行など口腔の局所解剖を熟知して,適切な器具・器械の選択と抜歯操作が重要である.さらに,抜去される歯の局所の状態だけではなく,患者の全身的な状態を考慮して,その適応や方法を判断する必要がある」と成書2でも記載されている. 抜歯術を施行するうえで重要なことは,合併症を避けることである.一般的な抜歯後の合併症には“ドライソケット”や“抜歯後感染”,埋伏智歯においては“知覚異常”が代表例として挙げられ,とくに高齢者に対しての抜歯においては,加齢変化にともなう歯根の骨性癒着や歯根肥大などの宿主因子が抜歯手技の難易度を上げていると考えられる. これらの合併症を防ぐために,歯根の骨性癒着Taku Kimura, Kenichiro Sakata, Hiroyuki Hato, Takumi Shimura, Taro Okura, Makiko Shibuya, Noriyuki Sakakibaraキーワード:高齢者,全身疾患,歯科小手術,抜歯Minor Dental Surgery for Elderly Patients Considering Their Medical Condition98the Quintessence. Vol.43 No.10/2024—2164木村 拓*/坂田健一郎*/羽藤裕之*/志村拓海*/大藏太郎*/渋谷真希子*1/榊原典幸*2はじめに抜歯の一般的な合併症について全身疾患や内服薬を考慮して行う高齢者への歯科小手術

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る