新聞クイント2017年12月(お試し版)
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2017年12月10日(日) 第264号2 今月のニュース大 学リレー連載 ⑫(最終回)繋ぐちから繋ぐちから次代を見据えた歯学教育を実践する教育者藤井一維日本歯科大学新潟生命歯学部長 11月2日(木)、東京医科歯科大学特別講堂(東京都)において、東京医科歯科大学(吉澤靖之学長)による歯科衛生士総合研修センター設立会見が開催された。本研修センターは、厚生労働省の受託事業である「歯科衛生士に対する復職支援・離職防止等推進事業」をスタートするにあたり、7月1日付で設立されたものであり、有資格者の復職支援および新卒などの新人研修を目的とした初の試みである。 冒頭、若林則幸氏(同大学歯学部附属病院病院長)は超高齢社会の進展による人口構成の変化やう蝕の減少による疾病構造の変化を挙げ、地域包括ケアシステムの推進などによる今後の歯科衛生士の人材育成や人材確保の重要性など、本研修センターの設立の経緯について説明した。 水口俊介氏(歯科衛生士総合研修センターセンター長)は研修内容について、基礎技術研修、シミュレーション研修、臨床研修などが体系的に学べるとし、個人の状況に合わせてどの段階からでも研修可能な自由選択プログラム制であることを概説した。詳細はホームページ(http://www.ikashikaeiseisi.com/)を参照。 つぎに品田佳世子氏(同センター副センター長)と渡邊洋子氏(同センター歯科衛生士)は、歯科衛生士はかかりつけ歯科医院の一員として生涯にわたって口腔機能の維持増進を支える重要な職種であることを強調。今後の歯科衛生士の活躍の場について、現在は歯科医院での勤務が90%だが、病院における周術期の口腔ケア、元気な高齢者への健康教育、地域包括ケア時代に向けて介護保険施設での需要が増加することなどが見込まれることから、歯科衛生士の離職防止・復職支援が急務とした。歯科衛生士の復職支援・離職防止などの推進事業がスタート東京医科歯科大学歯科衛生士総合研修センターの設立を報告。「人を診ることができる歯科医師」の歯学教育を実践したい 日本歯科大学新潟生命歯学部は、同病院で歯科訪問診療に取り組み、本年で30年を迎えた。同校出身者で在宅歯科医療の研究や現場で活躍する歯科医師が多いことも納得できる。まさに次代を見据えた歯学教育を実践している歯科大学といえよう。本欄では、藤井一維氏(同大学生命歯学部長)に歯学教育に対する想いをうかがった。藤井:新潟病院では、1987年9月に在宅歯科往診ケアチームを全国の歯科大学・歯学部に先駆けて設置しました。当時、「歯医者の出前」というタイトルでメディアでも取り上げられるほどでしたから、歯科訪問診療の認知度や理解度は非常に低いものでした。 「多職種連携」という言葉は、今でこそ当たり前のように耳にします。当時、他の歯科大学・歯学部も歯科訪問診療の必要性は認識されていたものの、実際の現場で縦割りの組織に関連のある専門科の横串を通すという連携を実践することは非常に難しいものでした。歯科訪問診療に関する教科書や先行事例はほとんどなくまさに手探りの状態でしたが、当時学部長を務められていた中原 泉先生(現本学学長)のリーダーシップや30代を中心とする講師の先生方の連帯感もあり、地域歯科保健医療に寄与すべくそのノウハウが蓄積されてきたわけです。地域の要介護高齢者や障害者の歯科訪問診療や口腔ケアに従事し、2014年4月から「訪問歯科口腔ケア科」として診療体制を強化し、より充実した体制で地域の訪問診療を担っています。 現在、歯科訪問診療を実施している歯科医院は全体の約1割です。人的な資源不足が大きな要因ですが、私は教育が充実してこそ現場は育つと自負しています。歯科医療従事者が患者さんの口腔機能を生涯にわたって保持していくためには、疾病構造の変化に対応する歯学教育の充実が求められます。私は、将来歯科医師を目指す学生たちが1人でも多く歯科訪問診療を当たり前と感じてもらえるような教育を目指しています。また、2016年4月から在宅医療を専門に行う医療機関の開設が可能になるなど、保険制度も追い風となってきました。さらに歯科訪問診療は、ふじい・かずゆき1988年、日本歯科大学卒業。同大学歯科麻酔学教室助手、講師、附属病院歯科麻酔・全身管理科助教授、歯科麻酔学講座(配置換)を経て、2008年4月、新潟病院歯科麻酔・全身管理科教授。2017年4月より現職(同大学院新潟生命歯学研究科長併任)。近年増加する女性の歯科医師だけでなく口腔ケアを実践する歯科衛生士も含め、結婚や出産、子育て中であっても仕事を続けやすいと思いますし、今後の雇用形態を変える可能性を秘めているのではないかと期待しています。 歯科訪問診療は歯や口だけでなく全身管理の知識も必要です。しっかり噛んで食べることのできる口腔機能を維持・回復することができて初めて評価されるわけですから、これからは本当の意味での歯科医師としてのプロフェッショナルリズムが問われると思っています。 私自身が本学で学んだような「人を診ることができる歯科医師」の歯学教育を学生たちに実践していきたいと考えています。 「熊本地震」は、熊本に住む人々にとってまったく予想していない出来事であった。 下から突き上げるような大きな揺れに瞬時に、認知症に特化した小さな介護事業所「あやの里」の皆を想った。 私たちの施設は、震源地の益城町から車で10分ほどの距離にある。地震発生直後は認知症の高齢者約40名が眠っている時間帯であり、崩壊した家屋を避けながら施設にたどり着き、すぐさま全員の安否を確かめるために各棟を走り回った。夜中にもかかわらず、家族を残して駆けつけてくれた代表をはじめ10数名の職員を施設内のあちこちで見かけたときには胸がいっぱいになった。当時のことを思い出すと、今でも感謝で涙があふれてくる。 初めての経験だらけのなか、大きな判断を瞬時に求められる状況に何度も遭遇した。私たちの判断で利用者様の命が危険にさらされることはあってはならないと、最初の数日間は眠れない日々を過ごした。 しかしそのような混乱のなかでも、施設内にある認知症カフェ「as a café」を避難所として開放し、すぐに支援する側に回ることができた。地震発生当日にトラックいっぱいの米と野菜を届けてくれた近所の農家の方や、大阪から400食の冷凍食品を運んできてくれた知人、2か月ほど泊まり込んでくれた職員やボランティアの方々、自治会や民生委員の方々は何度も様子を見にきては声をかけてくれた。予想を超えるたくさんの応援者がいつもかたわらにいてくれたおかげだった。 避難所となった「as a café」では、30名ほどの方々としばらく生活をともにしたが、被災者ではあっても皆それぞれができることを助け合い、お互いに見返りを求めない「共助」の力の大きさを感じることができた。私たちの施設は「地域の安心できる拠点を目指して」と理念に掲げているが、助けているつもりが助けられていることに感謝してばかりだった。 地震はもう二度と体験したくない。過酷な経験であったが、そこで培った「繋がり」という強さは、今も私の大きな財産となっている。 (岡元奈央・NPO法人あやの里副代表)「繋がり」という強さ、大きな財産に。
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