デンタルアドクロニクル 2021
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14はじめに 周知のとおり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中で猛威を振るい、現在日本では第3波が到来し、医療崩壊が懸念されている。 当院は九州中央の熊本市に位置し、歯科大学がないことから、2009年よりかかりつけ歯科医院の後方支援病院として麻酔科を併設して活動している。本稿では、地方都市・熊本における新型コロナの感染状況と、そのなかで後方支援病院としての当院の取り組み、そしてこのコロナ禍から失ったもの、得たものについて報告する。1.熊本市における新型コロナウイルス感染の状況 熊本市(熊本県)で初めてCOV-ID-19が確認されたのは2020年2月21日(金)の18時頃、某病院のスタッフであった。熊本県・市内での感染者数は増加し、ゴールデンウィークあたりをピークに第1波が到来。5月下旬に下降し始め、7月上旬にかけて少なくなり収束に向かうかと思われた。しかし夏休みに入る7月中旬頃から急速に増加し第1波の約2倍を超える数となり、8月初旬をピークに第2波が到来。9月中旬から10月初旬にかけてやや減少傾向がみられたが、10月下旬から著しい増加傾向を示し2020年12月1日現在第3波が到来している。 熊本県・市では現在「リスクレベル4・特別警報」を出して、県・市民に行動の自粛を求めている。 2.当院の感染予防対策①“水際作戦”のスタート 当院は24時間、365日対応の地域歯科診療支援病院であることから、日中はもちろん深夜に来院する外傷・炎症の救急患者も多い。日常から感染対策には十分注意を払っているが、今回COVID-19の予防対策としてワクチンや効果的な薬剤、治療法がないなか、「疑わしい患者を制限する」という基本方針のもと、問診の充実、検温の徹底により“水際作戦”を展開している(図1~4、表1)。対策の基本は、①患者からスタッフへの感染防止、②スタッフから患者への感染防止、③スタッフ間での感染防止である。 熊本市における第1号感染者の発生を受け、当院では直ちに院内感染対策委員会をもとに、病院長を委員長としてCOVID-19対策会議を構成した。対策会議では反省会を兼ね改善策を話し合い、現在まで毎日続いている。また、同日夕方来院の救急患者が中国・武漢からの帰国者と接触があったと申告したことから、COVID-19用の問診表を作成し、翌日より全患者に問診・検温を実施してきた。問診表も厚生労働省などの発令をもとに変更を加え、Ver.1から5へと改良を重ねている。②患者の動向 図5に2020年1~10月の当院の来院患者数とキャンセル数を示す。2月の初診患者数はやや減少、3月は11%減少、4~8月は16~18%減少した。これは緊急事態宣言の発令、歯科治療で新型コロナウイルスに感染しやすいという風評の流布、不要不急の歯科治療・手術は延期しようという学会や国公立病院の提唱によって、患者の感染症に対する強い警戒感が生じたことが要因と考えられる。キャンセル数は、緊急事態宣言発令直下の4月に前年比2倍と高い値を示し、5月からは元に戻ったもののやや減少傾向にある。感染不安による患者側からのキャンセルや、流行地域からの通院患者は必要に応じてメンテナンスなどの間隔を延ばしたためである。 一方、大きな影響を受けたのは訪問診療である。感染予防のため多くの病院や介護施設から訪問依頼が中止され、一時は約50%減を示した。現在はやや回復傾向にある。 こうした患者自身の判断による受診延期や訪問診療の中止により口腔衛生Dr. Takami Itoh Dr. Takatoshi Itoh伊東隆三(いとう・たかみ)*1伊東隆利(いとう・たかとし)*2*1 医療法人伊東会 伊東歯科口腔病院 病院長、顎・顔面・歯列矯正センター長。1973年神奈川歯科大学卒業、1977年鹿児島大学大学院医学研究科修了(医学博士)。福岡歯科大学歯科矯正学講座助手・講師を務め、1981年カルフォルニア州立大学ロサンジェルス校留学。1987年福岡歯科大学大学院歯科矯正学講座助教授を経て、2001年医療法人伊東会伊東歯科医院副院長、顎・顔面・歯列矯正センター長、2013年より現職。*2 医療法人伊東会伊東歯科口腔病院理事長。1968年日本大学歯学部卒業。鹿児島大学医学部附属病院歯科口腔外科講座講師、1975年伊東歯科医院勤務を経て、2008年医療法人伊東会理事長および伊東歯科口腔病院院長(院長は~2013年)。地域の後方支援病院としての新型コロナウイルス感染予防対策~熊本市・伊東歯科口腔病院における“水際作戦”~巻頭特集1-5オールデンタルで迎え撃つwithコロナ時代

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