102022年 歯科医療における感染制御スタンダード有事に試されるトップの一貫性 読者の院長先生がたの診療室では、スタッフさんが“心から働きやすい!”と感じていますか? お前のところはどうなんだと問われると、さすがに私も自信を持って、「うちのスタッフは、全員が働きやすいと感じています」とは、言いがたいです。しかし、私なりに気をつけ、考えていることはいくつかあります。 まずは、採用のための見学や面接の時に、自院の方向性や目的を明確に示し、それに共感してもらえる方に働いてもらうこと。当院では何よりも、「何のために?」という“目的”を大切にしています。なぜ今の診療スタイルになっているのか? そして、何を大切にして優先順位を決めているか? この価値観を明確にして、明示していきます。そこに共感してくださり、「ここで働きたい!」「この理念の元、一緒に医院を作り上げていきたい!」、そういう志を持った方々が集まるような場所を作ることを心がけています。 ここでいう医院の“目的”とは、トップの人間が心から実現したいと考え、求めているものです。“誰のために、何のために、それを実現したいのか”を何度も何度も自問自答して、磨き上げられ削ぎ落としたものです。たとえ周囲の人々に反対されたとしても、あらゆる困難が待ち受けていたとしても、自分自身が心から実現したいと思う世界。その根底にあるものが“目的”を根底に据えた“理念”です。この目的に基づき、日々の行動に一貫性を持って常に行動していくことが、目的に向かって進む第一歩となります。 そして、スタッフはそれが実践されているかどうかをよく見ています。トップや幹部の人間が私利私欲で動いていないか、本当に理念を実践しようと心から思っているのか。特に突発的なアクシデントがあった時にそれがよく表れます。つまり、有事に私たちは試されています(笑)。その時考えることは、コントロールできることに集中し、コントロールできないことには、振り回されないことです。有事に院長はどう動くべきか〜コロナ第1波の例〜 ここ最近でのその最たるものが、コロナ騒動です。一昨年、「唾液が感染の主たる媒体となる!」「急速に進行し命を落とすこともある!」こんな報道が連日のようになされ、国から最初の緊急事態宣言が発令されました。多くの情報が錯綜しました。圧倒的に手に入りやすく、わかりやすいのは民放テレビなど民間からの情報ですが、よく見ていると一部の体験談と憶測がメインです。一方で、公的機関の情報は信用度は高いもののわかりにくい。それでも、日本においては基礎疾患を持たない我々の年代はそれほどリスクが高いわけではないことが把握でき、一番怖いのは風評被害だと考えました。 ここで、私は決断を迫られます。コントロールできることとできないことを明確に分ける。そして、インサイドアウト(自分の内面、身近な大切な人から大切にしていく)で、理念に沿って優先順位を考えることにしました。1.風評被害から医院を守る まずは、風評被害から身を守るために、ある程度信頼できる情報が集まるまでは国の指示に従おうと決めました。具体的には、急性症状がある急患対応や、治療の停滞によって状態が悪化していく可能性のある処置のみとし、緊急性のないものやメインテナンスなどの通常診療をストップしました。継続的なメインテナンスを“緊コロナ禍を逆手に、“インサイドアウト”で安全で働きやすい環境を整備。Dr. Masaru Watanabe渡辺 勝(わたなべ・まさる)歯科医師わたなべ歯科(埼玉県)院長日本ヘルスケア歯科学会コアメンバー巻頭特集1-3
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