2022年 歯科医療における感染制御スタンダード 巻頭特集111急度が低い”とカテゴライズすることは、予防型歯科医院としては不本意ですが、“自分たちがいかに日頃から患者さんにセルフコントロールの重要性を伝えられているのか”を試される局面でもあるとも感じました。そこで、予約の変更連絡は担当歯科衛生士が直接電話をしてお詫びをし、セルフケアで気をつける点を個別対応でお伝えすることにより、理解いただくようにつとめました。2.スタッフを守る 休診による収益の大幅減は誰でも予想できます。長引けば倒産、閉院も視野に入れなければなりません。しかし、理念に立ち返り、そしてインサイドアウトの考え方をした時には、スタッフを守ることは、最優先で考えなくてはいけないことだと考えました。 頭でわかっていても、もちろん決断実行するにあたり迷いはありました。一部のスタッフからは、休診すべきでないという意見もありました。しかし、ここで「本気で取り組めばどんな困難も突破できるはず」と決断できたのは、これまで理念に基づいた経営をしてきて、感染管理もどこの医院よりもしっかりやってきたという自負があったからだと思います。 このとき、コロナ(の外的影響)はコントロールできないものと考え、自分がコントロールできるものに徹底的に集中することを考えました。スタッフには、「情報を集めるときに、テレビには頼らないでください」と伝えました。人は、わからないものには恐れをいだきやすいです。恐れを煽るだけの不確実な情報は排除し、感情で動かず、信頼性の高い情報をロジカルに判断して行動することを提案しました。休診にして、何をしたか 最初に取り組んだことは、急患対応の際の感染対策です。信頼できる仲間から得た情報をもとに、入手が困難となっていたフェイスマスクの自作、こまめな消毒や清掃などさまざまなくふうを施し、日々改善を加えながら応急処置、急患対応を行いました。いまから考えると多少オーバーだった部分もありますが、スタッフと患者さんを守るための事前準備を可能な限り徹底して診療に臨みました(図1)。この時にも根底にある考え方は理念からの一貫性です。 さらに、この状況だからこそできることは何があるのか、とポジティブに現状を捉えてみると、“やりたかったけれどできなかったこと”が次々と浮かんできました。そのなかでも特に“医院一丸となった教育”が私のなかでは大きく膨れ上がってきました。入職年数がバラバラなスタッフたちの知識・技術を極力均一化すべく、いまなら院長である私が直接教育担当者となり、スタッフと個別指導ができる時間がとれることに気がつきました。実技研修も普段は時間に追われるような形で診療の合間などにやっていましたが、より計画的に相互練習ができます。その結果どうなったか 休診中の取り組みは、想定以上の効果を生み出しました。緊急事態宣言が明け、通常診療に戻した時に、約2ヵ月の休診期間中の減収をたった半年で取り戻してしまったのです。本当にスタッフには感謝しかありません。常に理念を念頭におき、インサイドアウトの考え方を実行したおかげで、結果的にスタッフを守ることができただけでなく、全員のスキルアップを実感し、医院の収益も大きく伸ばすことができました。 コントロールできることに集中して、インサイドアウトで優先順位を決定する。これは自分自身、そしてスタッフを守るうえで非常に有益な方策でした。皆様の今後の医院経営にも参考になれば幸いです。参考文献1. 渡辺 勝.ピンチをチャンスに!自粛期間にレベルアップ.(In)深井穫博ほか.コロナ禍――その時、歯科は.歯科衛生士 45(3):32-33.図1 第1波当時、当院で追加・変更した感染対策の例1)当院で行った感染対策を動画にまとめ、以下に公開している。受付で検温しトリアージ口腔外バキュームによるエアロゾル対策ドアはスタッフが開閉し接触を防ぐ接触物はグローブにまとめて廃棄チェアサイドの機器には患者ごとにフィルムを被せエアロゾル対策
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