142022年 歯科医療における感染制御スタンダード巻頭特集1-5はじめに 中国の湖北省武漢市で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)が確認されてから2年が経ちました。世界規模での経済的損失は言うまでもなく、人々の生活ではマスクの着用、入念な手洗いとうがい、アルコール消毒など感染対策が定着し、在宅勤務に代表されるテレワークが一般化、教育機関や文化活動にも多くの制限がかかりました。このようにまだまだ予断を許さない状況の中ですが、これまでのコロナ禍を振り返り、今後の歯科医院のあり方を考えたいと思います。感染対策の実際 当院は、私の祖父が戦後間もない1945年に開業した歯科医院です。歯科医師3名、歯科衛生士と歯科助手を含めたスタッフ5名で運営する一般的な歯科医院で、スタンダードプリコーションを念頭に医院内の環境を整備しています。 当院の受付はガラスボードが備え付けてあるため、今回の感染症対策でビニールシートなどの遮蔽物を設置する必要はありませんでした。受付横には非接触型の顔認証サーマルカメラを設置し、患者さんの体温を測定できるようにしました。診療室内では歯科医師、歯科衛生士ともに診療中はフェイスガードを着用しています(図1)。 以前はほとんどインテリアと化していた口腔外バキュームがフル稼働し(図2)、さらに当院のチェア6台すべてに空気清浄機を設置しました。当院では元々、補綴装置の作製や調整をチェアサイドではなく技工室で行うようにしていたため、診療室は比較的清潔に保たれています(図3)。実は、COVID-19が流行した初期の頃は30分ごとに玄関の自動ドア、裏口のドア、診療室内の窓を開閉して換気を行っていましたが、診療が中断してしまうため、最終的には改装して外気を取り入れるシステムを導入しました。 洗浄のような軽い処置の前後にもチェアの清拭などの感染対策をすることにより、消毒に関する消耗品は非常に多くなりました。インプラント手術などの外科処置の際には通常より強化して対策を行っています。インプラント手術を予定するにあたり、検温と県外移動の有無などの問診を徹底しました。また、ワクチン接種が始まると患者さんから問い合わせが多かったので、日本口腔外科学会が発した「mRNA COVID-19ワクチン接種と口腔外科手術のタイミングについて」の局所麻酔手術の要件に従って手術を計画しました。十分なエビデンスはないものの、学会から提言されているので患者さんたちは安心した様子でした。私たちも患者説明の際に非常に助かっています。コロナ禍で起こったこと 私が開業している香川県のことを少しお話しします。県内で初めて陽性者が確認されたのは2020年3月17日でした。県全体の人口は95万人弱ですので全国的には順当な時期だったかと想像します。2020年5月は「景気の谷」と言われますが、当院ではある程度の影響を受けたものの、患者さんの動向に大きな変化はありませんでした。痛みをもった患者さんはつねに来院され、SPT(歯周安定期治療)で通院している方の大半はこの2年間も継続して来られています。地域医療上の役割として外科処置を継続していたこともあり、埋伏抜歯やインプラント埋入など小手術はコロナ禍以前と変わらずに行っています。 受診控えしたと思われる患者さんもいます。久しぶりに来たら歯周炎が進行して抜歯に至った方、義歯を紛失して欠損を放置していた患者さんもいました。報道の影響もあり、コロナ禍の初期には「歯科医院は危険な場所」という印象を抱いた方もいたのでしょうが、久しぶりに来院した患者さんの口Dr. Takeshi Toyoshima豊嶋健史(とよしま・たけし)香川県開業・医療法人社団新樹会 豊嶋歯科医院・九州大学歯学部卒業、歯学研究院卒業(歯学博士)・ITI フェロー・ITI セクションジャパン教育委員会メンバー・ITI 日本支部公認インプラントスペシャリスト・日本口腔外科学会認定 口腔外科専門医・日本口腔インプラント学会認定 専門医・日本口腔科学会 認定医・日本補綴歯科学会 認定医・香川大学医学部口腔外科非常勤講師、神奈川歯科大学大学院客員教授過剰に怖がることも過信すること もなく粛々と感染対策を行い、胸を張って歯科医療を提供すればいい
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