2022年 歯科医療における感染制御スタンダード 巻頭特集115腔内を診て、残念な気持ちになることが少なくありませんでした(図4)。悩ましい患者対応 当院に通院している患者さんの中で、COVID-19の陽性者になった方がいました。陽性になってすぐに患者さんから連絡をいただき、その日のうちに当該患者の直近の受診履歴を調べ、同時間帯に待合室や診療室で居合わせた可能性のある患者さんに電話で事情を説明し、体調の変化などがないか確認しました。幸いなことにどなたにも症状はありませんでした。間もなく管轄の保健所から連絡があり、PCR検査を受けるよう促されました。検査当日にはスタッフ全員の陰性が確認でき、みんなで胸を撫で下ろしたのを覚えています。当時、通院患者さんに陽性者が出た場合には2週間の休診を余儀なくされた医療機関もあったようですが、当院は対象となりませんでした。 また昨年には、市中病院に勤務している患者さんから「コロナ病棟に配属される可能性が出てきたが、このまま歯科治療を続けていいですか?」と相談がありました。その市中病院では勤務している人の日常生活についてまだ明確なルールができていなかったようで、患者さん本人も非常に戸惑っている様子でした。医療人としては、応召義務を含めて「治療継続!」と言いたい反面、痛みをとるなど緊急性の高い治療のみを行って、その他は感染状況が落ち着いてからにしたほうがいいだろうかという気持ちもありました。万が一、その患者さんが陽性になってしまったらどんな事態になるのか想像もつきませんでした。結局、市中病院内で病院勤務者のルールを明確化してもらったうえで、患者さんは治療継続を希望したため、当院も十分に体制を整えて、通常どおり診療を行うことにしました。 今でも何が正解だったのかはわかりません。当時すでに歯科医院でのクラスター発生は数少ないとはいえ報告されていましたし、当院のスタッフの安全を考えると理想論だけでは済まされなかったとも考えています。一方で、地域医療に携わる一医院として、コロナ最前線で踏ん張っている病院勤務の患者さんに、さらに我慢をお願いするのは同じ医療人として正しいのだろうか、という葛藤はは未だに消えません。今後の歯科医院のあり方 地域医療を担う当院では、スタンダードプリコーションに立脚した当たり前の感染対策しか行っていません。場合によっては頼りないものに感じるかもしれませんが、個人医院では設備投資の限度も勘案しなければいけません。この2年間で当院の患者さんに起こったことも、おそらく読者の皆さんが見聞きしたこととあまり変わらないのではないでしょうか。歯科医院におけるCOVID-19のクラスター発生はごく少数であることを踏まえると、過剰に怖がることもせず、自分達を過信することもせず、私たちは粛々と日々いつもどおりの感染対策を行い、胸を張って歯科医療を提供すればいいと考えています。 口腔内環境が全身に及ぼす影響が詳らかになって久しい今、歯科医療は重要です。1つひとつの歯科医院が目の前の患者さんに対して歯科医療の重要性を伝えると同時に、歯科界全体では一致団結して、コロナ禍における歯科医療の役割を社会に対してもっとアピールしていく必要があると考えています。図1 診療中、スタッフは全員フェイスガードを着用している。図2 「安心して通院できる」と患者さんからも好評の口腔外バキューム。図3 軽い処置の前後でもチェアの清拭を行うなど、診療室はつねに清潔を保っている。図4-a、b 受診控えによる患者さんの口腔内状態の変化。COVID-19が怖くて家からあまりでなかったという85歳の患者さん。たった2年間の間に歯周病と脱離による二次う蝕が進行、歯根破折を来したため654141567を抜歯し即時義歯を装着した。会話の理解度も低下した印象で、この治療後の2020年6月以降受診していない。ab
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