162022年 歯科医療における感染制御スタンダードDr. Tatsunori Nagao長尾龍典(ながお・たつのり)京都府・ながお歯科クリニック院長ICOI(International Congress of Oral Implantologists)指導医JAID(Japanese Academy for International Dentistry)常務理事EN大阪 理事Invisalign公認ファカルティ、Invisalign GPアドバイザリーボードメンバーCOVID-19による生活・歯科界の変化 COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の出現により生活スタイル、そして診療スタイルも今までの常識を覆すほどの変化が起こりました。世のなかでは一気にオンライン化・DX(デジタルトランスフォーメーション:デジタル技術による革新と生活の向上)化が加速してきました。 歯科界においても感染予防のため学会や研修会は軒並み中止となり、代わりにWebによるオンラインセミナーやミーティングがメインとなりました。インターネットにつながる環境であれば参加が可能となり、移動時間のかからない便利さがある反面、ライブといえど一方的なものになりがちで、より人の興味を引きつける力が試される時代になってきたと感じています。 臨床においては、今までにない状況への対応に追われた2020年に比べて、どの歯科医院においても感染対策への取り組みがより洗練されてきたと思います。また患者さんの健康意識が高まり、「マスクをつけているこの期間に矯正歯科治療をしたい」と矯正歯科治療を希望する患者さんの増加が報告された発表も目にします。コロナ禍における当院のデジタル化とその進化 当院で矯正歯科治療用に光学印象を導入したのは2018年、院内感染予防対策の一貫としてデジタル化に大きく舵を切ったタイミングでした。それまでメインだったワイヤーとブラケットでの矯正歯科治療ならびにアライナー矯正治療はシリコーン印象で行っていましたが、嘔吐反射のある患者さんが口腔内だけでなく口腔外を汚してしまうなど、患者さん受けが良くなかったことも導入の理由のひとつです。 それから1年余後の2020年3月11日、WHOがパンデミックを宣言し、3月15日付The New York Times紙に、「歯科衛生士や歯科医師はCO-VID-19感染リスクのもっとも高い職業である」と掲載されました1)。 臨床における感染経路がわからないなか、当院ではなるべく感染の可能性を減らす方策のひとつとして、特例を除き模型レスにすることに決めました。印象採得をすると感染リスクのある医療廃棄物が発生し、模型製作などでスタッフ・歯科技工士を感染の危険にさらしてしまうと考えたからです。 そのため、デジタル矯正システムを用いた治療がメインになり始めたのですが、慣れてくると光学印象のほうが早くできるだけでなく、患者さんの負担が少なくてすみます。必要があってシリコーン印象やアルジネート印象を行うと、患者さんから「どうして光学印象をしてくれないの?」「なぜ保険で使ってはいけないんだ?」との訴えがあり、多くの患者さんが印象採得時の苦しさや、嘔吐感と戦っていたんだなと感じました(筆者も嘔吐反射が強いので、早く保険診療時の光学印象が認められることを切望いたします!)。 2020、2021年は、当院における既存の治療ワークフローのどこにデジタルが活用できるかを模索した2年間となりました。その結果、当院では右図のようなワークフローを構築し現在に至っています。各種ソフトウェアやアプリケーションを含めたデジタルと矯正歯科治療の融合により、われわれ歯科医師はより多くの恩恵を受けることが可能になってきました。しかしながら、治療にはしっかりとしたエビデンスや技術が必要であることは周知の事実です。このたび創刊となったJAO日本版が、アライナー矯正治療を行う先生方にとって最新のエビデンスや技術をいち早く習得できるバイブルとなること、そして来たるべき未来へと導いてくれることを確信しています。デジタルとの融合を目指したアライナー矯正治療の可能性巻頭特集1-6
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