182022年 歯科医療における感染制御スタンダードDr. Ryutaro Kobayashi小林隆太郎(こばやし・りゅうたろう)日本歯科大学東京短期大学学長。日本歯科大学歯学部卒業、同大学大学院歯学研究科修了(歯学博士)。同大学歯学部附属病院顎変形症診療センター長を経て2010年より同大学口腔外科教授。日本歯科医学会総務理事、日本歯科医学会連合専務理事。連合内の将来構想検討委員会新型コロナウイルス感染症対策チーム長として感染対策に尽力している。危機に強かった歯科の標準予防策 2020年3月、WHOからパンデミックが宣言された頃、ショッキングなニュースが飛び込んできました。ニューヨーク・タイムズが掲載した「The Workers Who Face the Greatest Coronavirus Risks」によると、新型コロナウイルスに感染するリスクがもっとも高い職種は歯科医師だというのです。また、米国の情報サイト「GOBankingRate」の各職業の「COVID-19感染リスクスコア」でも、歯科衛生士のスコアが99.7、歯科医師が92.1と高スコアでした。 この情報はまたたく間に知れ渡り、歯科受診を延期する患者さんが続出。そして歯科医療従事者にとっても不安の種となりました。しかし、あれから2年弱が経ちますが、歯科診療所における診療を介しての直接の感染は、2021年末の時点で一例も確認されていません。 感染リスクがもっとも高いとされる歯科で、なぜこれまでクラスターを防ぐことができたのでしょう。これはひとえに、従前より歯科が励行している「標準予防策」(スタンダードプリコーション)がコロナ危機にも機能した、ということだと思います。 しかし当時、多くの歯科医療従事者にとっては、仕事とどう向き合い、どう行動をすれば患者さんと自らを守ることができるのか、立ち止まらざるを得ない困難な局面だったと思います。歯科界では、エビデンスに基づいた感染防止情報をいかに的確に伝えるかが急務でした。 法人格をもつ組織として独立性のある日本歯科医学会連合がその役割を担い、新型コロナウイルス感染症対策チームが発足。緊急事態宣言発令前の2020年4月はじめに、まず発信したのが「歯科診療における新型コロナウイルス感染症に対する留意点について」のホームページへの掲載です。 この第2報で感染対策の要点として掲げたのが、歯科が日頃から励行するスタンダードプリコーションと、それに加えた「感染経路予防策」でした。 現在歯科医療全般で行われているスタンダードプリコーションは、もともとはエイズウイルスの感染対策として構築されたものです。不顕性感染、潜伏感染している患者さんの受診を前提に考案された予防策ですので、「血液、唾液、体液、分泌物、嘔吐物、創傷皮膚、粘膜などは、感染性があるものとして取り扱わなければならない」という考え方が徹底されています。 こうした予防策に加えて新型コロナウイルスの感染対策で必須なのが、「感染経路予防策」=「3密回避と換気」。つまり各診療所の感染対策の基本はスタンダードプリコーション+3密回避と換気。これが重要であることを日本歯科医学会連合のホームページからまず発信しました。「標準予防策が基本」というメッセージが即座に広がった 歯科医療従事者であれば、「基本はスタンダードプリコーションです」といえば、誰もがピンときますよね。「ああ、あれをすればいいのか」とすぐに把握できます。学校で教わったり、講習を受けたりして、毎日医院で行い身についている予防策ですから。 当時、東京歯科大学の同窓会報で、細菌学の泰斗、奥田克爾先生も繰り返しスタンダードプリコーションが重要だと説いておられました。こうした発信や、日本歯科医師会が2020年8月に発行した「新たな感染症をふまえた歯科診療の指針」(第1版)がもとになって、臨床現場に、「これをきちんとしていけば乗り越えられる」という落ち着きが徐々に戻ったように思います。 当初は連合にも、「家族が歯科衛生新たなパンデミックに備え歯科の口腔健康管理で生きる力に寄与する巻頭特集1-7
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