デンタルアドクロニクル 2022
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62022年 歯科医療における感染制御スタンダードDr. Tadahiro Yanagawa柳川忠廣(やながわ・ただひろ)(公社)日本歯科医師会副会長。1979年、東北歯科大学(現奥羽大学歯学部)卒業。浜松市歯科医師会会長、日本歯科医師会常務理事を経て、2013年から2021年6月まで静岡県歯科医師会会長。2016年より日本歯科医師会副会長。また、(一社)日本歯科専門医機構副理事長を務めるなど要職多数。コロナ禍における日本歯科医師会としての対応 コロナ禍における日本歯科医師会(以下、日歯)として主に3つの対応を行いました。 1つめは衛生用品の確保です。新型コロナウイルス感染症の蔓延をうけ、マスク・アルコール・グローブ等の確保が必要になり、国や県の支援のもと都道府県歯科医師会などと連携し、歯科医師会会員に配布いたしました。 2つめに標準予防策(スタンダードプリコーション)をすることは大前提として、プラスαが求められるようになりましたので指針を示しました。コロナ以前から標準予防策は施されていたかと思いますが、患者さんの診療ごとにチェアをアルコールで拭く作業や、冬場でも換気のために窓を開けるといったことは一般的にはあまり行われていなかったと思います。 3つめは、歯科診療所に対しての経営支援です。雇用調整金や持続化給付金などの公的な支援金の対象になるように働きかけ、政策融資が受けやすくなるようにもお願いしました。なお、公的な支援以外では①災害対策見舞金、②休診補償制度、③医療従事者補償制度の3つを準備いたしました。 ① 災害対策見舞金は、感染による影響で休診した際、日歯から都道府県歯科医師会を通じて申請があったものに対して、一件につき20万円を給付するという制度を創設いたしました。 ② 休診補償制度につきましては、2022年の更新の際に、もう少し柔軟なプランに変更したいと考えています。たとえば感染者が出た場合に院内を消毒するかと思いますが、これまでは、民間の清掃会社を使用しなければなりませんでした。しかし、民間の清掃会社が手いっぱいで予約が取れなく困った時期がありました。そのため、院内スタッフで消毒した場合でも補償の対象となる条件等を緩和したプランに変更する方向で2022年も休診補償制度を継続したいと考えています。 ③ 医療従事者補償制度は、日歯独自ではなく医師会等と協力したものですが、政府労災の上乗せの補償制度です。主にスタッフ用の制度で、コロナに罹患して労災に認定された・休んだ際に給付金が支給されます。十分とはいえないかもしれませんが、日歯として可能な限りの対応はさせていただいたと考えています。定期的な歯科受診は健康被害のリスクを軽減させる 感染拡大初期のころは「歯科は飛沫が飛ぶのでエアロゾル感染リスクが高い」という報道がかなりありました。取材の中で日歯として、歯科医療機関は十分な感染対策を行っていることや、患者さんが一方的に予約の取り消し、治療を中止してしまうことによる健康被害の方が大きいということを主張しました。当時、新型コロナウイルスに関するエビデンスが明らかではありませんでしたが、月日が流れ「歯科医院でクラスターが一件も起きていない」という話が広まり、われわれが調べても歯科医療を通じた感染報告はあまりないということがわかりました。むしろ定期的に受診することで口腔の健康が維持されると同時に重症化予防にもつながることがわかってきたということも大きいかと思います。歯科医師によるワクチン接種実現に至るまでの道のり 振り返ると、歯科医師によるワクチン接種が始まる約1年前に歯科医師によるコロナ感染症のPCR検査が認められました。われわれは、検体を採取することはできても医師法第17条に抵触するため、医科病名の診断を目的とした検体採取はできません。そこで、有識者会議が設置され医道審議会の医師分科会と歯科医師分科会で初めて合同会議が開かれ私が出席しました。会議では違法性が阻却され、まず時歯科におけるコロナ禍でのこれまでを振り返る、そして今後のビジョンとは(公社)日本歯科医師会巻頭特集1-1

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