Ama Dr. Ats nouo8巻頭特集1-2No Dentistry, No Wellness! 継承と革新から創造する歯科の未来 筆者は昭和末期に大学卒業。昭和の歯科治療は「削る・詰める」そのものでした。チェアーからチェアーへ、浸麻とタービンを握りしめ、歯科医は黙々と「削る・詰める」を繰り返しました。多くの患者さんは「先生にお任せします」と横になって口を開けてくれました。削る・詰めるに満足していただいていると思っていました。時折、チェアーの患者さんの表情に不安・不満が読み取れることもありました。そしてやっと気づきました。歯科医院から出てきた患者さんの顔に「削られた、抜かれた」と書いてあることに。 昭和の患者さんは知っていたんです。「先生に詰めてもらったところが取れました」が繰り返されることを。取れたら、また削る、また取れたら、また削る。「歯の寿命は削れば削るほど短くなる」と歯科医療人が告げられたのは2000年。その反省から、必要以上に削らないMinimum Interven-tion(MI)治療が始まりました。さらに、予防歯科も広がりました。病気の治療とは病因を取り除くこと。う蝕と歯周病の最新病因論に基づいた予防歯科診療が実践されるようになりました。う蝕と歯周病に完治はない 削って詰めたら、う蝕は治るのでしょうか。歯周ポケットが浅くなったら、歯周病は治ったのでしょうか。それは思い違いです。う蝕と歯周病の直接の病因はバイオフィルムです。口腔からバイオフィルムをなくすことはできません。病因が駆逐されないかぎり、天野敦雄(あまの・あつお)大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座予防歯科学教授・歯科医師う蝕と歯周病が完治することはないのです。ここに、ライフコースを通してリスク評価をする意義があります。リスクに応じて、宿主の抵抗力とバイオフィルムの攻撃力のバランスを崩さない「防ぎ・守る」を継続します。う蝕のリスク評価 予測歯科では、予知性の高い客観的指標を用いて将来の発症リスクを評価します。評価指標は最新病因論に基づいたものでなければなりません。 Cariogram、CAMBRA、CRASPなどのシステムが日常の歯科臨床にすでに導入されています1。しかし、最新のう蝕病因論の指標を盛り込んだものはまだありません。う蝕には、社会環境要因と保健行動要因が発症に大きな影響を与えていることが知られています。現状では、最新病因論を理解した術者が、現行のシステムを知識で補いリスク評価を行うことが適切でしょう。歯周病のリスク評価 歯周病のリスク評価には、3つの発症要因(感染要因・宿主要因・環境要因)を評価できるシステムが必要です。現状では、細菌検査による細菌学的評価(感染要因)と、喫煙や飲酒などの生活習慣(環境要因)の評価が実昭和の歯科医療:削る・詰める平成の歯科医療:MI治療と予防歯科令和の歯科医療:予測歯科予測歯科とは 健口を「取り戻す」ために「削る・詰める」歯科治療は、令和になっても必要です。一方、う蝕と歯周病の「発症を防ぎ・健口を守る」も令和の歯科医療を支えます。「防ぎ・守る」ために必要なことは、一人ひとりの発症リスクを前もって知ることです。ライフコース(最近、ライフステージに代わる言葉として使われている)において、リスクに応じた予防歯科を継続して提供するのです。望ましいのは、小児期にはう蝕リスク、青年期には歯周病リスクを客観的・定性的に評価し、リスクに応じた予防策を提供して将来の発症を未然に防ぐことです。これが予測歯科です(図1)。健口を守り育てるために、予測歯科は大いに効果を発揮すると考えられます。予測歯科が発症を防ぎ、健口を守る
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