デンタルアドクロニクル 2023
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宿主との宿主とのバランス維持バランス破綻No Dentistry, No Wellness! 継承と革新から創造する歯科の未来  巻頭特集1リスク検査リスク評価で発症予測予測する予防歯科セルフケアプロケアリスク評価に基づいた管理計画立案歯科衛生士のOHIに従ったセルフケアリスクに応じたプロケア(異なる処置内容、メインテナンス間隔。OHIもリスクに応じて)図1 予測歯科とは発症リスク評価に基づいた予防歯科。図2 細菌叢によって、う蝕と歯周病のどちらのリスクが高いか見えてくる。安静時pH低下、低い微生物叢の多様性健康維持う蝕のリスクが高い歯周病のリスクが高い低リゾチーム、高アルブミン、高キチン分解酵素、安静時pH高、高度な微生物叢の多様性健康維持(文献5より引用)MegasphaeraPrevotellaVeillonella用化されています。宿主要因については、遺伝子多型などいくつかの候補が報告されていますが、日本人の体質に合ったシステムの実用化には、まだ時間が必要です。・バイオフィルム細菌検査による評価 歯周病の発症は、「バイオフィルムの攻撃力」と「歯周組織の防御力」の均衡の崩壊によるものです2。レッドコンプレックスを構成するP. gingiva-lis、T. denticola、T. forsythiaが定着していると歯周病発症リスクが高いことは、世界の歯周病研究者のコンセンサスです。リスクはオッズ比で表現されています。オッズ比の値はお国柄、人種、年齢層などで異なっていますが、たとえば5mmを超えるポケット形成のリスク(オッズ比)は、P. gingiva-lisで15.30です3。・P.gingivalisの高病原性遺伝子型 すべてのP. gingivalisが同じ歯周病原性をもっているわけではなく、遺伝子の型によって病原性が異なります。P. gingivalisの菌体表面には線毛とよばれる毛が生えています。線毛は、P. gingivalisの口腔への定着、歯周組織細胞への侵入、炎症誘導などに関与する重要な病原因子です。線毛遺伝子の違いによって6種類の型の線毛があることが知られており、その中でⅡ型線毛の歯周病原性は極めて高いことがわかっています。われわれの研究・病原性評価の将来像 バイオフィルムの病原性は、レッドコンプレックスにだけ依存しているわけではありません。他にもバイオフィルム全体の病原性を高めるメカニズムがあります。われわれの研究を含め、日米の最近の研究成果から、新たなバイオフィルムリスク検査が開発できる可能性が示されており、予測歯科の貴重な武器となることでしょう。たとえば、図2の研究では、今の細菌叢から将来の状態を垣間見ることができる可能性が示されています。では、このⅡ型線毛のP. gingivalisに感染している患者さんは、感染していない場合に比べ44.44倍の歯周炎リスク(オッズ比)があることが示されています4。Ⅱ型線毛のP. gingivalisが検出された場合には、「エクストリームリスク:歯周病になる可能性が極めて高い」患者さんであると区分すべきと思います。線毛遺伝子型判定検査は、国内の臨床検査会社で実施されていますので、一般の歯科医院でも利用可能です。2040年問題に向けた歯科イノベーション6 日本歯科医学会は、2040年の日本社会の革新につながる歯科「イノベーションロードマップ」を2019年に発表しました。ぜひご覧になって、こんな未来が20年後に来るなんて、とワクワクしてください。令和のその先も日本の歯科が楽しみです。参考文献1. 久保庭雅恵,天野敦雄.令和のカリオロジーダイジェスト 第4回カリエスリスク評価(CRA)~患者さんのう蝕リスクはどう予測する?~.歯科衛生士.2022;46(5):68-75.た。同時に、う蝕と歯周病の早期発見・早期治療と予防歯科の価値の周知に役立ちます。歯科医院は「痛くなったら行くところ」ではなく「痛くならないために行くところ」という認識変容を進めるとともに、予測歯科の追い風となってくれるに違いありません。令和の歯科が楽しみです。9S.mitisS.salivariusS.vestibularis糖質分解シンバイオーシス低年齢からのディスバイオーシス2. 天野敦雄.歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジーダイジェスト【増補改訂版】.第2章歯周病の最新病因論Ⅰ 歯周病のマイクロビオームの話.東京:クインテッセンス出版,2020:18-39.3. 天野敦雄.歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジーダイジェスト【増補改訂版】.第4章歯周病の最新病因論に基づいた歯周治療.東京:クインテッセンス出版,2020:64-94.4. 天野敦雄.歯科衛生士のための21世紀のペリオドントロジーダイジェスト【増補改訂版】.第5章歯周病の予測:危険因子を見逃すな.東京:クインテッセンス出版,2020:96-113.5. 久保庭雅恵,天野敦雄.令和のカリオロジーダイジェスト 第5回令和のう蝕病因論(3)~口腔マイクロバイオームの最新情報~.歯科衛生士.2022;46(6):49.6. 久保庭雅恵,天野敦雄.令和のカリオロジーダイジェスト 第11回令和のその先へ~近未来の歯科医療に関する最新情報~.歯科衛生士.2022;46(12):68-75.タンパク質分解令和のその先へ国民皆歯科健診 「骨太の方針2022」に、生涯を通じた歯科健診として「国民皆歯科健診」の具体的検討が盛り込まれました。これは「健口は全身の健康を支える」と国民に知らせることにつながりまし

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