No Dentistry, No Wellness! 継承と革新から創造する歯科の未来 巻頭特集1図1 デジタルの神髄は、見えなかったものを「見える化」するところにある。今後審査診断においても、歯科医師と歯科技工士は、最重要パートナーとして活躍すると思われる。図2 この歯冠自動設計ソフトウェア(AI-CAD)は、まだ開発途上のソフトである。現在は、両隣在歯のある臼歯に限定されている。修正を含めて5分程度での作業となる。図3 模型自動搬送・自動計測システム。本システムはまだ完全なものではないが、技工業界の一気通貫として線になって繋がっていくと確信している。参考文献1. デジタルプロセス株式会社.DORA/WAXYのご紹介.In. 日本デジタル歯科学会(監).QDT別冊 デジタルデンティストリーイヤーブック2022.東京:クインテッセンス出版,2022:125-128.2. 吉次範博.AIが導く今後の歯科技工業界の発展と未来を探る.In. 日本デジタル歯科学会(監).QDT別冊 デジタルデンティストリーイヤーブック2022.東京:クインテッセンス出版,2022:129-136.す人間にならなくてはならない。AIの発展により、人間の根本的な「考える力」が弱くなり、AIの言われるがまま(頼りすぎてしまう)動く人間となるおそれがある。それゆえ、AI等の提案に対して正しいジャッジができる能力が必要であろう。たとえば一流シェフの料理のレシピは提供してくれるが、それがおいしいかどうかをジャッジするのは人間ということとなる。それらのことから、今まで以上に人間にしかできない「創造力」や人と人との繋がりを重視した仕事の仕方が、重要となってくる。歯科技工界においても、このAIの導入は大きな変革のチャンスとなり得ると考え、どのように取り入れるのかを考えることが重要である。より良い環境にできるかどうかは、われわれの考え方にかかっているのではないだろうか(図2)。 専用模型台で製作された模型を専用ラックに収納し、それらを自動的に卓上型技工スキャナのに搬送していくシステムがある(図3)。これを利用することにより、休み時間や夜間を利用し、スキャニング作業を無人で終わらせることが可能となった。あらかじめ収納ラックに準備された模型を、ロボットアームが、卓上型技工スキャナーに搬送し、自動でスキャニングを行うのがこのシステムの全容である。ロボットアームにはカメラが設置されており、模型の上面に貼られたQRコードをカメラで認識する。夜に模型をセットすれば、QRコードに埋め込まれた加工材料やシェードといった情報を基に先述したAIによる自動設計がなされ、加工機に自動転送の上でそれぞれの材料による加工までが自動化でき、翌朝には加工が終了しているという環境もそこまで来ている。 近年の歯科技工のデジタル化において、これから何を学ぶか、また、何が求められるのであろうか。この歯科界で少しおざなりにされているのが、各種補綴装置製作においての工程管理ならびに、使用材料などにおいてのトレーサビリティーである。補綴装置のトレーサビリティーを明確にすることは、安全・安心な歯科医療を提供するためにはきわめて重要である。このようなことから、患者の情報を含めた一貫した管理を行うには、人の手による紙媒体での情報管理では不可能で、デジタル化を進めることにより、より管理しやすい環境となる。一般の製造業の中においては、ISO9001などの取得をはじめ、多くの企業が、環境の整備と管理のシステム強化に、積極的に活動している。われわれにおいても、平成17年に厚生労働省医政局長通知において、「歯科技工所の構造設備基準」および「歯科技工所における歯科補綴物等の作成等及び品質管理指針」が発令され、このような環境整備の必要性を示唆されてきた。世の中では、市販のサインペン1本にもバーコード等がしっかり整備されている。こうした一般業界とくらべ、歯科界は著しく劣っているようにも感じる。われわれ歯科技工士においても、医療従事者の3. デジタルプロセス株式会社.DORA/WAXY新機能のご紹介.In. 日本デジタル歯科学会(監).QDT別冊 デジタルデンティストリーイヤーブック2021.東京:クインテッセンス出版,2022:151-162.一員としてこのような環境整備を、真剣に受け止める時期が来ている。 近年の歯科技工業界を取り巻く労働環境の厳しさに対し、全体としてはなかなか歯止めがきいていないのが現状である。今後、15年の間に半数の歯科技工士が65歳を迎え、約73%の技工所に後継ぎがいないという事実を真摯に受け止め、ロボット化とAIによる自動化、省力化などへの投資が必要ではないだろうか。これらのことから、先端企業や大学等との協業も必要かもしれない。このような対策を図りながら、歯科業界全体の発展のためにもデジタルのさらなる普及と機械化は必要である。いずれにせよ、変化・進歩を続けるこの業界では、つねに新しい情報により、知識と技術を身に着けることが必須となる。今に満足していると、あっという間に時代から取り残されてしまう。「どうしたら歯科技工士として生き残れるのか」を真剣に考えなければならない。11ロボットアームによる模型の自動搬送デジタルでの品質管理おわりに
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