f. rimaPrNofujiosaa Ok巻頭特集1-514No Dentistry, No Wellness! 継承と革新から創造する歯科の未来 1989年から厚生省(当時)と日本歯科医師会によって推進された「8020運動」は、当初7%ほどの達成率であったが、2016年には51.2%と目覚ましい伸びを示している1。これは国民の堅実さと本運動の目標達成に尽力している歯科医師や歯科医療職のかたがたの努力の賜物である。 この8020運動の成果を示した歯科疾患実態調査には興味深い点が多く、不正咬合の実態調査(2016年、調査対象12~15歳、16~20歳)を見ると歯列に叢生のある者は約26%、空隙のある者は約10%、反対咬合傾向の者(オーバージェット0mm以下)が約5.5%、上顎前突傾向の者(オーバージェット4mm以上)が約40.1%、開咬傾向の者(オーバーバイト0mm以下)が約11.0%、過蓋咬合傾向の者(オーバーバイト4mm以上)が約29.3%であった1-3。 生涯を通じて歯を多く残すことは健康長寿を支えるうえで望ましいが、この調査結果からは、歯科医療の役割に、歯を残すことに加えて噛める・笑える歯を保つ・整えることが求められ、変革が余儀なくされていることが示唆されている。 不正咬合を疫学的視点から考えた場合、どの程度までを正常範囲とし、どの程度から不正咬合とするかが重要な指標となる。これには、矯正歯科治療が必要となる2つの要因が大きく関係する。ひとつは咬合異常の重症度のような機能的要因で、客観的評価となりうる。もうひとつは容貌のような社会心理学的要因で、主観的要素が強い3。 近代歯科矯正学を牽引したAngle EHは、1907年に「Orthodontiaとは不正な歯の咬合状態を治療すること」と定義した4。数々の功績を残しているAngleは1899年、上下顎第一大臼歯の近遠心的関係をもとに不正咬合の分類を発表した。現在も世界中の矯正歯科医が用いているこの分類は、非常に簡便かつシンプルであり、咬合をより良好に機能させる治療計画を筋道を立てて立案できるようになった。また矯正歯科治療を、叢生や歯並びの改善という視点のみからとらえるのではなく、上下顎歯列の正しい咬み合わせを整えることに転換したともいわれている。これは当時の矯正歯科におけるパラダイムシフトといえるだろう。 傾斜移動はよろしくなく、平行移動(歯体移動)させるメカニズムが必要岡藤範正(おかふじ・のりまさ)松本歯科大学大学院硬組織疾患制御再建学講座、歯学部歯科矯正学教授(兼務)。JAO(Journal of Aligner Orthodontics)日本版のLocal Advisory Board(諮問委員)を務める。1987年松本歯科大学歯学部卒業、同年歯科矯正学講座助手として入局、2007年から現職。日本矯正歯科学会指導医・臨床指導医(旧専門医)、日本外傷歯学会常任理事・認定指導医、日本顎変形症学会評議員、甲信デジタル矯正研究会顧問。今秋開催される第9回日本国際歯科学会の矯正歯科セッションにも登壇予定。との考え方から1926年に発明されたエッジワイズ装置もまた、Angleの功績のひとつである。その後も多くの矯正歯科医が努力を続けた結果、治療法が発展と進化を続け、数々の不正咬合患者が正常咬合へと導かれていった。 このように、矯正歯科という分野では常に技術の継承と革新が行われ続けてきた。もちろんそのたびに論争が巻き起こり、受容と拒絶を織り交ぜながら、矯正歯科は現在までを歩んできた。 こうした変遷を経た矯正歯科の分野に、まったく新しい潮流として樹脂製で可撤式のアライナー型矯正装置が誕生した。以前からマウスピース型の可撤式矯正装置は存在したものの、国内外においてもっともアライナー矯正歯科が多くの期待と不安をもって注目される契機となったのは、1997年のアライナー矯正治療システム Invisalign(Align Technology社)の提供開始であろう。これ以降、アライナー型矯正装置では装着するごとに歯が少しずつ移動するようデジタル3Dソフトウェア上で設計されたアライナー(マウスピース)を、次々に装着・交換することで正常咬合へと導くスタイルの、そしてメーカー主導の装置が主流となった。8020運動が矯正歯科の必要性を呼び起こす矯正歯科は何のためのものか、その源流をたどるまったく新しい矯正歯科治療の誕生と現況矯正歯科における継承と革新
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