日本アライナー矯正歯科研究会の進化と発展2023できる。尾島:重要ですね。瀧野:でも、どんなにお話をしても、なかなか全部の患者さんには伝わらないですね。どうしても、お金や治療期間の問題がありますので。これからも粘り強く伝えていくことが必要かなと思っています。アライナーが中高年者の矯正治療の可能性を拡げる図1 術前。歯列不正と垂直性の骨欠損が散見される。図2 術後。再生療法を行い、さらにアライナー矯正を実施。骨の再生と歯列の改善が認められる。50瀧野:最近アライナー矯正が普及して、少し変わってきたなと感じています。先ほど、「40代、50代になって、今さら矯正治療なんて」という方が多いという話をしましたが、アライナーだと結構受け入れてくれるんですね。欠損があったり、相当なディスクレパンシーがある状態で、内心「この段階で?」と思ったりもするのですが、希望される方がいらっしゃる。なかには、若いときに矯正したかったけどできなかったという方もいます。尾島:アライナー矯正ってどちらかというと10代くらいの若者のイメージがあると思っている方が多いのですが、私は50代や60代、70代の方にもお勧めしたいと考えています。この年代の方はものすごくまじめで、やる気もある。10代だと支払いは親御さんなので、「失くした」とか「つけるのを忘れた」ということはしょっちゅうですが、中高年の方は自分のお金でもあり、とにかく一生懸命。なかには、結婚式のときに矯正したかったけど、事情があってマルチブラケットを諦めたという方が「ようやくできます」と喜ばれるケースも意外と多いんですよ。瀧野:もちろん、重度歯周病の患者さんの場合、どのタイミングで矯正をするかというのは、いまだに議論されていて、実際判断が難しいところではあります。ただ、私のケースでお話しすると、重度歯周病患者さんではフルフラップで全部開ける全顎再生療法を手がけることが多いのですが、技術の許される限り3ブロックで行います。つまり3回で済ませるんですね。犬歯から第二大臼歯まで、上下のブロックを片側ずつ2回、そして、それ以外の部分を1回の計3回。ビギナーの先生には絶対にお勧めしないのですが、私は頑張って3回で行って、そこから矯正治療に入る。すると、驚くほど骨ができてくることがあります。尾島:本当ですか。瀧野:結局、歯の移動の場所によって、そこの吸収速と添加速とがうまく重なり合って、矯正の力が加わったときに再生のアクセルが踏まれてなのか、もしくは咬合が良い方向に向かっているなかで再生とともに改善されるからなのか、従来の普通に待ってから矯正していたときよりも、再生療法後に矯正を組み合わせる方法のほうが骨ができ瀧野:あと、私の医院には全国から歯肉退縮の患者さんが紹介されてきます。歯周治療がうまくいかなかったものもありますが、「矯正治療で退縮した歯肉を何とかしてほしい」という矯正医からの依頼も少なくありません。尾島:矯正後の歯肉退縮のフォローアップを先生に依頼するのですね。瀧野:以前は「先生助けてください」という依頼ばかりでしたが、最近は危なそうという場合は、事前に「矯正しても大丈夫ですか?」と相談に来るケースが増えていて、それは良いことと思っています。ペリオドンティストとしては、矯正前に聞いてもらえるのはすごくありがたくて、「矯正をやっても大丈夫」とか、「事前に根面被覆をしておいたほうがよい」と答えられる。そうなると自分にも責任があるので、仮にうまくいかなかった場合でもしっかりとフォローできます。尾島:見極め方はどんな感じですか?瀧野:現状ある程度付着歯肉や角化歯肉があって、その歯が移動する場所が、そのままボーンハウジングの中にるということを実感しています。尾島:すごいですね。瀧野:こうやって矯正治療をすることで再生が増すっていうのは、以前からワイヤー矯正との組み合わせでも感じていました。ただ、アライナーは力のかかり具合が異なるので違うのかなとも考えていました。でも実際手がけてみると、今のところ再生療法後にアライナー矯正を行った場合でも、同じように良い方向にいく手ごたえを感じています(図1、2)。エビデンスとしては、まだこれからになると思いますが。尾島:RAP(regional acceleratory phenomenon:局所再生促進現象)効果とよばれるものですね。マイクロパーフォレーションみたいに出血させることでむしろよく動く。インプラント治療の場合では、先に埋入して骨に結合するまでの期間に、矯正で素早く起こすことができますし、同時に骨の再生も促されるかもしれないですね。矯正後の歯肉退縮は的確なシミュレーションで予防可能
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