No Dentistry, No Wellness! 継承と革新から創造する歯科の未来 巻頭特集1図2 これからの予防歯科医療に必要な5つのP。P5personalization(個別の)predictive(予測することができる)preventive(予防的な)participatory(参加型の)physician's perspective(医科的見地)ないでしょうか。つまり、医療の質の向上や時間の効率化、コストの削減につながってこそ、デジタル化の意義があるということです。 歯科医師は今後、国民の口腔内だけではなく、全身の健康利益のための歯科医療にフォーカスする必要があります。Kenneth Kornman先生は、Leroy Hood先生の話を引用して、「4つのPに基づく医療(P4 medicine)」1の重要性を指摘しています。筆者はそれにもう1つPを加えて、「Physician's perspective(医科的見地)」が必要だと考えています(図2)。 まず、「personalization」。つまり、医療を個別化し、患者さんごとのオーダーメイド型の医療を行うことです。 2つ目が、「predictive」。疾患が発症する前に予測し、再現性の高い医療を実現しようという考え方です。 3つ目が、「preventive」で、より重症化する前、あるいはそもそも発症する前に、疾患を予防することです。 4つ目が、「participatory」のPで、いかにシステムが良くても、患者さんが参加してくれないと意味がありません。つまり、患者さんの行動変容をはたらきかける医療を提供しようということです。 最後が、「physician's perspec-tive」です。全身が健康であるにもかかわらず、継続的に通院する医療機関は歯科医院しかありません。ですから、歯科医院で患者さんの重症化リスクをスクリーニングし、他の医療機関と連帯して患者さんの全身的な予防を行うことが、人生100年時代の歯科医療の大きな文脈であるととらえています。 今後は、医科をはじめとした他職種との連帯がひとつのキーワードであると考えています。これまで歯科界の外ではこうした連帯が行われていましたが、歯科を起点とした他職種との連帯が今後さらに重要になると思います。すなわち、「こうした歯科医療を行いたいので、専門職サイドではこの仕事をしてほしい」と、歯科医師からオファーや依頼をする仕組みです。 たとえば、最近多くの事例が報告されている管理栄養士との連帯です。予防の観点においても、食事摂取頻度や食事の内容がカリオロジーと関連することは論をまちませんが、これを口腔の健康だけではなく、全身の健康にも応用していくことは、非常に意味があることです。 ほかにも保育士や助産師を雇用して、乳児に摂食嚥下の仕方を教えたり、育児中の親に母乳の仕方を教えたりすることは、歯科医師がアドバイスするよりも圧倒的な説得力があります。 さらに、小児期においては口呼吸の改善のためアデノイドや扁桃腺の切除での耳鼻科とのタイアップ、アレルギーのコントロールでの小児科医への依頼、成人であれば姿勢や体幹に関して理学療法士にアドバイスを求めたり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群では睡眠専門医との連帯によりオーラルアプライアンスやCPAPを導入する必要参考文献1. 築山鉄平,宮本貴成.GPとDHのためのペリオドントロジー.東京:クインテッセンス出版,2018;11-31.性が出てきます。高齢の患者さんには、歯周病治療において循環器や糖尿病内科医などと連帯することなども挙げられます。 より医科的で他職種的な見地を歯科医師が理解し、患者さんの各ライフステージのなかで、どのような医療サービスが提供できるかについて思いを馳せること。こうしたプラスアルファの見地が、ウェルビーイングが求められている社会情勢のなかで、より重要になっていくと思います。 当院では、患者さんへのウェルビーイングだけではなく、歯科医院内のスタッフに対しても、働き方の柔軟化や多様化を進めています。歯科医院は、8~9割が女性の職場であり、各人のライフステージに応じた対応がとくに必要といえます。妊娠、出産、子育てへの支援は当然のこととして、たとえば年齢に応じた医院内での役割の変更や、人生のタイミングに応じて1か月ほどの長期休暇の取得などを導入しています。 本稿の冒頭でAIによるデジタル化への期待を述べましたが、人材育成においては、やはり人間的な“愛”も必要です。こうした歯科医院内での働き方の改善を、今後さらに図っていきたいと考えています。7国民の健康利益を考えた今後の歯科医療とは予防の観点における歯科と他職種との連帯歯科医院内におけるウェルビーイング
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