デンタルアドクロニクル 2024
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okoac8hi Ad Dh. Na ようやくポストCOVID-19時代にむけて議論ができる雰囲気となってきたことを感じます。COVID-19感染拡大は、臨床現場もさることながら、歯科医師・歯科衛生士教育界にも大きな変化をもたらしました。対面講義や基礎実習が中止となり、オンラインやオンデマンド動画による講義や演習にとって代わりました。緊急事態宣言下では臨床実習さえも中止となり、従来と同様の教育ができなくなってしまったのです。宣言が解除された後も、感染対策に留意しながらの日々でした。 この春卒業する歯科衛生士学生たちは、その多くがまさにコロナ禍真っただ中、入学当初からいわば従来とは異なる教育を受けてきた世代です。教育現場はどのように教育の質を保とうとしたのか。また、これからも歯科衛生士の専門性の向上にどのように寄与できるのか。本稿では教育の観点から臨床家のみなさまへメッセージを送りたいと思います。 コロナ禍における教育現場での変化の一つは、デジタルトランスフォーメーション(DX)や人工知能(AI)の活用です。今や学会もセミナーもオンラインで実施されることがあたりまえになりましたが、教育現場でもZoomやMicrosoft Teamsをはじめとするツールが急速に普及・活用されはじめ、実習においても、それらのツールやVRゴーグル、各種シミュレーション教材などDX・AI活用の波が来ています。その代表的なものの一つが、歯科教育用患者ロボットシミュレーションシステムであるシムロイド®を用いた実習です(図1)。 シムロイド®とは、人体に酷似した外観と反応を備えたヒト型ロボットで、見た目、肌の質感もまさに人そのもの(リアルな人形恐怖症の方はご注意を)。目を動かしたり瞬きをしたりするなど表情を変えるだけでなく、こちらの問いかけに反応し言葉のやり取りが可能で、頷いたり、「あ、痛いです」と手を挙げたり、身体を「びくっ」とさせたりすることもできます。さらに、実習行為を動画で記録し、再生、評価する機能も備わっています。 これまでも、マネキンや口腔模型、シミュレーションシステム等を用いた歯科教育や実習は行われてきましたが、技能の研鑽が主とはいえ、先行研究でも手技の鍛錬を評価したものがほとんどです。しかし、医療者として、患者の発言を傾聴し、共感しながら、医療に必要な情報を過不足なく引き出安達奈穂子(あだち・なおこ)歯科衛生士東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科口腔疾患予防学分野す能力を培うこともまた重要であり、それこそが歯科衛生士業の肝といえるのではないでしょうか。 まだ予備的検証の段階ではありますが、このシムロイド®を用いて医療面接を行う実習を実施したところ、実習前後で学生たちの臨床に対する自信に有意につながることが示唆されました1。このような教育効果は、患者との円滑なコミュニケーションの確立や患者の個別ニーズに合わせた適切な介入計画の構築につながり、より質の高い口腔健康管理を提供できる可能性が広がります。今後も、このようなツールがますます活用されるようになることが考えられます。 ここまでは卒前教育について述べてきましたが、すでに歯科衛生士として臨床現場で働いている方にとっても、コロナ禍で日常生活が一変し、不安を抱えていることは想像に難くありません。また、新卒で就職が決まったものの、コロナ禍で十分な実習を受けられずに不安なまま卒業した人も多いでしょう。そこで、各都道府県歯科衛生士会をはじめ、全国各地の歯科衛生士研修センターを活用するのも有効だと考えます。 歯科衛生士研修センターの多くは、巻頭特集1-2ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理そのとき、教育現場では手技の研鑽にくわえて医療面接スキルを培う新ツールの登場現役・復職組の不安解消こそ歯科界の急務これまでも、これからも口腔健康管理の担い手は歯科衛生士

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