デンタルアドクロニクル 2024
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seoTomoji HirDr.  2019年から始まったコロナ禍により、日常生活のみならず、歯科医療の現場でも大きな変化が生じた。歯科では従来から、スタンダードプリコーションを徹底してきたこともあり、歯科治療を通じたCOVID-19の感染例はほとんど報告されることがなかった。そのため、医療分野において歯科の対策は高く評価されるようになった。しかしながら不要不急の外出自粛や行動制限により、歯科の受診抑制が生じたことは否定できない1。とくに歯科訪問診療(以下、訪問診療)はCOVID-19流行にともなう社会情勢の影響を多大に受けた。本稿ではポストコロナ時代の訪問診療について、「社会の状況と訪問診療」、「訪問診療のトレンド予測」の2点から論考する。 訪問診療は、障害や疾患を有していても住み慣れた地域で生活を継続する地域包括ケアを実現する上で社会的役割は大きい。ただし、歯科医療者の安全確保を踏まえる必要がある。・高齢者のさらなる増加 わが国では2042年ごろまで高齢者が増加すると予想されている。高齢者は、疾患や障害を複数有していることが多く、ADLが低下して通院が困難となることが少なくない。そのため今後、訪問診療の対象者は必然的に増加する。また、高齢者の増加にともなって認知症患者も増加するため、認知症高齢者への訪問診療の要請もますます増えることが見込まれる2。認知症患者への対応については、歯科医療者に周知されつつあるが、後述する医療者の安全確保の観点からも論じられるべき課題が多い。・障がい者・医療的ケア児 地域包括ケアの見地から、障がい者・医療的ケア児(日常生活に医療を必要とする小児)が、住み慣れた地域で療養可能な体制整備が必須であり、歯科医療もその一翼を担うことが求められている。医療的ケア児は全国で約2万人と推計されており、訪問診療への期待は大きい。訪問診療は、高齢者が対象という概念からの脱皮が必要である。・訪問診療の安全確保 2022年、埼玉県で在宅医療の従事者が犠牲になった事件をきっかけに、医療現場の安全をいかに確保するかについて、議論や検討がされるようになった。日本医師会は、医療従事者の安全を確保するために取り組むべき対策案を掲示しており(表)3、検討が進められている。また認知症患者への虐待が問題となっている一方で、認知症患者から暴言、暴力を受けるケースは、廣瀬知二(ひろせ・ともじ)歯科医師 伊東歯科口腔病院訪問診療部長 1985年 北海道医療大学歯学部卒業 1989年 広島大学大学院歯学研究科歯科理工学専攻修了 1994年 (医)康和会にて訪問診療に従事 2015年 伊東歯科口腔病院訪問診療部長、現在に至るあまり顕在化していない。「認知症であれば、何を言っても、何をしても許されるのか」という議論は、医療のみならず社会全体の急務であろう。 訪問診療においては長らく量的な推進が行われてきたが、多様化するニーズに応えるべく質の向上が求められている。ポストコロナ時代に向けて、質向上のためのトレンドをいくつか予測してみたい。・ICTの活用 コロナ禍中にあっては、頻回の訪問診療を避けることが求められた。そのため当院では、事前の情報収集に依頼元の施設と一部ビジネスチャットを導入した。これにより、義歯の状態、粘膜疾患の病状などをある程度画像で把握して診療器材・薬剤を準備することが可能となり、さらに動画の利用により摂食の状況も事前に確認できるようになった。 また、2021年の介護報酬改定により、施設系サービスの介護職員は、歯科医師または歯科医師から指示を受けた歯科衛生士から口腔衛生の管理にかかる助言・指導を年2回以上受けることが必要となった。要件としてテレビ電話などを利用することも可能となったため、当院ではYouTubeを活用して、介護職員はQRコードをスマート巻頭特集1-3ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理10はじめに社会の状況と訪問診療訪問診療のトレンド予測ポストコロナ時代に向けた、歯科訪問診療の展望

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