デンタルアドクロニクル 2024
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表:医療従事者の安全を確保するための対策(文献3を参考に作成)。図:訪問診療で適応されるオーラルアプライアンスの例 ( a )PAP ( b )PLP 形態を付与したPAP( c )不随意運動により咬傷をくり返す患者の粘膜保護床。者の増加と治療法が確立されてきたことがある。新しいポジションペーパーにはビスホスホネート(bisphos-phonate:BP)製剤や抗RANKL抗体デノスマブ(denosumab:Dmab)のような骨吸収抑制薬(antiresorptive agents:ARA)により治療を受けている患者にしばしば遭遇する。従来抜歯はMRONJ発症の局所リスク因子として重視されてきた。しかし、新しいポジションペーパーでは抜歯のみがMRONJ発症の主要因ではなく、口腔衛生状態の不良や歯周病、根尖病変、顎骨骨髄炎、インプラント周囲炎などの顎骨に発症する感染性疾患が、MRONJ の明確なリスク因子として重視されている。そして、抜歯に際して、現状ではARA休薬の有用性を示すエビデンスがないことから、「原則としてARAを休薬しないことを提案する」と明記された。一方、「グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン」では、BP製剤の有用性がエビデンスレベルAで推奨されており6、使用患者がますます増加すると推測される。訪問診療においては、ARA使用患者の口腔衛生管理、感染性疾患の原因となる歯の抜歯などの対応が、今以上に求められる。・服薬支援 訪問診療の場で、口腔機能低下症、摂食嚥下障害を有する患者への食支援が行われ、多職種から評価されている。しかし、患者の服薬行動について目を向ける歯科医療者は、まだ少数である。介護施設や家庭では、服薬が困難な高齢者に対して、介助者や家族が薬をつぶしたり、とろみ剤を使ったりの服薬がしばしば見受けられる。錠剤2. 木村琢磨.ポストコロナにおける在宅医療の展望.日内会誌 2023;112(5):851-56.3. 日本医師会.医療従事者の安全を確保するための対策について(令和4年7月).https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20220713_31.pdf(2023年11月20日アクセス)4. 長谷英明,古賀智也,高江洲雄,鈴木宏樹.義歯製作時におけるオンライン立ち会いの可能性(前編・導入編).QDT 2023;48(11):16-28.5. 日本口腔外科学会 顎骨壊死検討委員会.薬剤関連顎骨壊死の病態と管理 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023.https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/work/guideline_202307.pdf(2023年11月20日アクセス)6. 一般社団法人日本骨代謝学会 グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン作成委員会(編).グルココルチコイド誘発性骨粗鬆症の管理と治療のガイドライン2023.東京:南山堂,2023.7. 廣瀬知二.嚥下機能が低下した高齢者への服薬支援.In:朝波惣一郎,王宝禮,矢郷香(監修).薬 YEARBOOK '24/'25.患者に聞かれても困らない! 歯科医師のための「薬」飲み合わせ完全マニュアル.東京:クインテッセンス出版,2024.11ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理  巻頭特集1参考文献1. 湯本浩通.ポストコロナ時代の口腔健康管理 口腔感染症と全身疾患の関連性.日衛学誌 2022;17(1):48.①危機察知力の醸成②応召義務の正しい理解③相談窓口の設置④警察との緊密な連携体制の構築⑤地域における危機情報を共有するネットワークの構築⑥各医療機関における防犯対策フォンで視聴する方式を採用した。施設からは、都合に合わせて受講できる、参集しなくてよい、と好評である。一方、医療保険のほうでは、通信画像情報活用加算(+30点/月)が2022年に新設された。まだ算定要件に種々の制約はあるが、現場の歯科衛生士からの情報を画像で確認、必要に応じて急遽訪問診療となるケースもあるため、評価が始まった意義は大きい。今後、訪問現場から、院内外の歯科技工士や言語聴覚士、管理栄養士、薬剤師等との画像共有について評価が望まれる。・歯科技工士との連携 嚥下補助装置としての義歯の製作はもちろんのこと、超高齢社会を反映してPAP(palatal augmenta-tion prosthesis)やPLP(palatal lift prosthesis)、不随意運動による口腔粘膜保護を目的するオーラルアプライアンスを必要とする患者が増加している(図)。また、医療的ケア児の中にはスピーチエイドやC-M床(Castillo-Morales口蓋床)、発達不全、障害の程度に応じた自家製口腔機能訓練器具などを必要とする患者が含まれている。口腔機能の障害・発達不全に対する補綴的アプローチに歯科技工士が携わる機会は、オンライン立ち会いなどを通じていっそう増えるものと推測される4。歯科技工士ならではの発想が嚥下臨床に活かされることを期待する。・薬剤関連顎骨壊死(medication-related osteonecrosis of the jaw:MRONJ) 2023年、薬剤関連顎骨壊死に関するポジションペーパーが7年ぶりに改訂された5。その背景にはMRONJ患(a)(b)やカプセルの粉砕は苦みや臭いが現れるのみならず薬効にも影響する。また、とろみ剤を使った内服は薬剤吸収に影響を及ぼす報告が散見される。個々の患者に適した服薬支援は薬剤師が中心となって行われているが、歯科医療者は薬剤の口腔残留を発見する立場にある。服薬支援についての知識を有して、多職種と連携して対応する必要がある。歯科の立場からの服薬支援について、今春発刊の「薬YEARBOOK」で詳記するのでご覧いただきたい7。 コロナ禍の経験により、訪問診療は社会に急な変化を生じたときに、その影響をたちどころに受けることを痛感した。今後、各方面でこの経験が活かされ、訪問診療が患者のQOL向上のために、そして地域社会のために、さらに寄与することを願う。(c)おわりに

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