デンタルアドクロニクル 2024
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onoa OkhiruicDr. Sh 新型コロナウイルス感染症(以下COVID-19)の大流行は、われわれの生活やビジネス様式に前例のない変革をもたらした。この未曽有の事態がポストコロナ時代ともいわれる新たなフェーズに入ると、世界中の業界や企業は、生き残りと成長のためにデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速を余儀なくされた。DX化は単なるテクノロジーの採用を超え、ビジネスプロセス、企業文化、顧客体験の全面的なデジタル化を含む、ビジネスモデルの根本的な見直しを意味することとなった。 リモートワークの普及は、このDXの最も顕著な例である。多くの企業は従業員が自宅や離れた場所で働くためのインフラを整備した。これにより、物理的なオフィス空間の必要性が減少し、労働力の柔軟性と生産性が向上した。その一環でもあるクラウドコンピューティングへの移行は、データアクセスと処理の効率化を実現し、ビジネスの敏捷性を高めている。 また顧客との接点においても、オンラインでの顧客エンゲージメント、パーソナライズされたマーケティング戦略や製品、サービスの提供など、DX化は顧客体験の根本や本質さえも変化させた。消費者の期待も高じ、企業はより迅速で透明性の高いサービスを提供することが求められ、それにともない、顧客行動の洞察、市場トレンドの予測、製品開発の最適化にAIやビッグデータの分析が大きく貢献している。COVID-19がもたらした人びとの意識の変化は、こうした取り組みを加速させる契機となっている。 こうした働き方や暮らし方における意識の変化は、矯正歯科の領域にも少なからず影響を及ぼしている。以前は、コンサルテーションや経過観察を行う際にオンライン診療を提示しても、多くの患者が対面での診察を好み来院することを選択していたが、COVID-19の拡大にともなってオンラインでのコミュニケーションが一般化した結果、直接的な処置を行わない問診やコミュニケーションを中心とした内容であれば、オンラインでの診察を希望する患者が圧倒的に増えた。これは、COVID-19によってもたらされた新しい生活様式の反映であり、われわれの矯正歯科分野におけるDX化への移行が垣間見えた事例のひとつであった。岡野修一郎(おかの・しゅういちろう)Aligner Studio(東京都)。2011年日本大学松戸歯学部卒業後、同大学同学部歯科矯正学講座卒後研修過程修了。2021年よりJAO(Journal of Aligner Orthodontics)日本版のLocal Advisory Board(諮問委員)を務める。Invisalign Global Gallery Peer Review Award APAC 2017、2018、2020、2022を受賞。 アライナー矯正治療は、装置の開発段階からデジタル技術を核として構築されているため本質的にデジタルネイティブであり、DXの流れを取り入れる基盤がすでに整っていた。そのため、アライナー矯正治療はDX化の波に迅速に適応し、矯正歯科分野におけるDX化を先導する重要な役割を担っていると考える。さらにアライナー矯正治療は、デジタル技術と医療の融合にもひと役買っている。この融合が進むにつれ、治療の精度と効率性が高まるだけでなくさらなるイノベーションを生み出している。その例として挙げられるのが、遠隔モニタリングシステムによるアライナー矯正治療である。現在筆者は、アライナー矯正治療を行うほぼすべての患者に何らかの遠隔モニタリングツールを用いている。その中でも使用頻度が高いのが、DentalMonitoringである。このDentalMonitoring社による遠隔モニタリングシステムは、スマートフォンを用いて患者自身が口腔内写真を定期的に撮影し、専用のアプリケーションで画像を共有、その画像をもとに歯科医師が診断を行うことで経過観察と管巻頭特集1-5ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理14COVID-19が加速させた生活と矯正歯科のDX化アライナー矯正治療を活かす遠隔モニタリングシステムDX化による矯正治療の変化と不変の真理

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