デンタルアドクロニクル 2024
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umi Ue Dr. Ma yno 2023年12月1日に厚生労働省が公表した11月29日0時時点の新型コロナウイルス感染症患者の療養状況、病床数等に関する調査1によると、インフルエンザは前週から32,974例増と大幅に増加しており、定点あたりの報告数は28.30と警報基準(30.00)に近い大流行となり、警報超えの地域が前週の4県から23道県に拡大していることがわかりました。8月以来減少が続いていたCOVID-19は3か月ぶりに増転し、1万例を超えています。私が出向している精神科病院(福井記念病院、神奈川県三浦市)でも、職員/入院患者ともにインフルエンザ発生が続いており、対応に追われる毎日です。 数十年前までは、精神科の閉鎖病棟に入院する患者さんは若く、精神科疾患以外の合併症は多くないため、精神科における医療関連感染はあまり問題視されていませんでした。しかし、精神科入院患者の高齢化が進み、身体合併症の重症管理の必要性が増しています。現在、精神科入院患者の約半数は65歳以上の高齢者であり、病名別にみると、認知症では93.2%、統合失調症では50.0%の入院患者が高齢者と報告されています2。 精神科病院における院内感染リスクには、一般の病院と異なる以下のような特徴があります。①精神科病院の構造と治療環境 精神科病院の病棟には開放病棟と閉鎖病棟があり、閉鎖病棟にはドアが多く、職員は移動するたびに施錠を行う必要があります。そのため、鍵やドアノブを頻回に触ることから、接触感染につながります。また、転落や離院防止のため窓が10cm程度しか開かないように工夫されているところが多く、十分に換気が行えず飛沫感染のリスクが高くなります。 さらに食堂では集団で食事をしますし、テレビのリモコン、書籍や新聞も共有します。そのほかにも、作業療法や集団精神療法を行うなど、複数の患者さんで集まって活動することで病識や社会性を獲得し退院後の社会生活や職場復帰へつなげることも治療の一環であるため、精神科病院の入院診療は集団行動で行うことが多く、密になりやすいことも感染拡大しやすい要因の1つと考えられます。 また、異物誤飲してしまう方が多いことから、歯磨剤や洗剤などを看護師が管理する閉鎖病棟では、擦式アルコールを設置することができない場合もあります。上野繭美(うえの・まゆみ)2006年、福岡歯科大学歯学部卒業。2016年、鶴見大学歯学部口腔内科学講座。2019年、医療法人財団青山会福井記念病院へ出向、同病院の食の安全推進委員会委員長、感染対策委員会委員長。日本歯科心身医学会認定医。日本口腔内科学会認定医。労働衛生コンサルタント(保健衛生)。ICD協議会認定インフェクションコントロールドクター。②入院患者さんの特性 精神科での感染対策が困難となる点として、患者さんが清潔保持行動に抵抗を示したり、日常生活のパターンの変化を受け入れにくい傾向があることが考えられます。感染対策に協力的な患者さんがいる一方で、協力が得られない患者さんもいて、対応が統一しきれないと感染拡大のリスクが高くなります。さらに、精神科疾患の治療には抗精神病薬が用いられますが、薬剤性嚥下障害をきたすものが多く、食事中や口腔ケア中にムセや咳による飛沫が発生しやすいこと、薬剤性パーキンソニズムや遅発性ジスキネジアによりご自身での食事摂取が困難で、食事介助や口腔のケアに介助が必要など、患者さんに密接となる看護ケアが必要になるため、病棟職員が飛沫を浴びやすい傾向にあります。③精神科病院職員の特性 身体疾患の治療はいわゆる身体医が行いますが、精神科医は精神疾患の治療が主体のため当院のように常勤の身体医がいない病院があることや、感染症に精通した専門スタッフが少なく、看護職員の人数も少ないことが挙げられます。当院もICD(インフェクションコントロールドクター)を有するものは歯科医師である私1名であり、非常勤内科医師と連携しながら看護職員巻頭特集1-7ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理巻頭特集1-7ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理18今冬の感染症流行高齢入院患者の増加と精神科病院の感染対策歯科医療職が直面する感染リスクと期待される感染対策とは?

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