デンタルアドクロニクル 2024
47/180

尾島賢治氏アライナー矯正は,歯周病の患者さんと相性がいい2012年 博士(歯学)取得2014年 日本大学歯学部兼任講師(歯周病学)岩野義弘氏1999年 新潟大学歯学部卒業日本大学歯学部保存学教室歯周病学講座入局岩野歯科クリニック開業正だったのですが,エックス線写真を撮影すると,臼歯部に至るまで,根尖まで骨が吸収してしまっている状態でした.顎関節症の治療のためということで,5年かけて矯正歯科治療を受けたそうなのですが,その結果,こうなってしまったと…….その後,がんばって治療を受けられて,いまでも当院にメインテナンスに通ってくださっていますが,当時は非常に衝撃を受けた症例です.尾島:歯の移動を行う際には,歯周組織の状態を把握するのは重要ですね.岩野:もちろん,尾島先生のように歯周病をよく理解されているスペシャリストの先生は,きちんと炎症のコントロールをしてから矯正歯科治療をされますので問題ないのですが,歯周病が極端に進行しやすい方もいるという点には,注意を払う必要があると考えています.尾島:先ほどお話したように,私は歯周病の患者さんへの矯正歯科治療には,アライナー矯正が適していると考えています.理由はいくつかあるのですが,まず第一には,アライナー矯正は清掃性が良いことです.岩野:それは,本当にそうですね.尾島:患者さん自身で取り外しができるので,治療中でも口腔内の清掃を難しくしないというのが1つ目の理由です.2つ目は,咬合高径を上げられることです.アライナーを装着することによって,咬合高径が上がり,強くかんでしまっているところが当たらなくなりますし,矯正移動中の早期接触を緩衝することができます.咬合面被覆型の装置であることは,歯周病患者における矯正治療でのアライナーの強みです. 3つ目は,患者さんの年齢の部分です.歯周病の患者さんは成人が多いですよね? 成人の方,とくに年齢が上の方ほどマルチブラケットでの矯正歯科治療を受けるのに抵抗がある場合が多いですので,見た目の違和感が少ないアライナー矯正なら受け入れやすくなる思っています.岩野:たしかに,理由をお聞きすると歯周病患者にはアライナー矯正が適しているというのは,納得できます.とくに清掃性については,歯周病患者では非常に重要です.尾島:これまでは,いまお話した3つをアライナー矯正が歯周病の患者さんに向いている理由に挙げていたのですが,最近,さらに追加したいことが出てきました.岩野:そうなんですか? どういったことでしょうか?尾島:まず,マルチブラケットによる治療よりも,細かく歯の動きをコントロールできることです.アライナー矯正は,デジタル技術を取り入れることでどんどん進化しています.マルチブラケットでは歯の移動や歯列の拡大の範囲はブラケットやワイヤーの形,幅に依存する部分が大きかったのですが,アライナー矯正ではデジタルデータを活用することで,どの歯を動かすか,動かさないか,またどれだけ動かすかもより細かく設定し,コントロールすることができます. 私は,治療の際には口腔内スキャナーによるスキャンだけでなく必ずCT撮影も行うのですが,CTのデータがあれば歯根と歯槽骨の状態を目で見て把握したうえで,より精度の高い,予測実現性の高いプランニングが行えます.岩野:なるほど.尾島:歯周病の患者さんに話を戻しますと,矯正歯科治療ではやはり絶対的固定源がほしくなりますが,歯周病の患者さんでは全顎的に動揺があり,どこに固定源を求めたらいいかわからない場合があります.臼歯部が咬合崩壊しておりバイトがとれなくて,前歯部はフレアアウトしてしまっている.そういった場合には,先に上顎あるいは下顎の臼歯部にインプラントを埋入し,それを固定源にすることができたら治療は楽になりますが,歯を並べる前にインプラントを埋入するわけですから,埋入位置の決定が難しい. ですが,先ほどお話したようにデジタルデータを活用することで精度の高いプランニングが行えますので,「ここ!」という埋入位置を割り出すことができるのです.適切な位置にインプラントを埋入できたら,それを固定源にして治療を進めていくことができますし,バーティカルサポートがあるので上顎前歯部のフレアアウトも改善していきます.45歯科界大注目スタディグループ2024  巻頭特集3

元のページ  ../index.html#47

このブックを見る