デンタルアドクロニクル 2024
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図2 医院内にある“「おいしく食べる」実感ラボ”。へ指導しており、実際、ていねいに実践してくれています。 また、当医院には管理栄養士や内科医師が勤務しており、口腔内だけでなく全身疾患をもっている患者さんには、医院内の内科を受診してもらっています(図1a、b)。 全身疾患があっても、かかりつけ医院がない、そもそも病院へ行かない患者さんを内科へ誘導することは容易ではありません。しかし、当医院のように歯科医院内に内科があれば「メインテナンスのついで」として、内科を受診してもらい、生活指導や検査、治療につなげることができます。 内科を設置していることからもわかるように、当医院では口腔から全身の健康管理を目指して、日々患者さんと接しています。さらに、それを補助するために、待合室の一角にオープンキッチン“「おいしく食べる」実感ラボ”を設置し、患者さんや地域の方へ向けたセミナーを定期的に開催しています。 また、セミナーを開催していないときでも、食品管理責任者の資格を有する管理栄養士に、できる限りいろいろなものを調理するように指示しています。なかでも、パンを焼いた際には試食会として患者さんに焼きあがったパンを食べてもらったり、持ち帰ってもらっています(図2)。この取り組みには、「歯医者さんは〔食べる〕を支えるところ」だと実感してほしいという意味を込めています。 人間が何か行動を起こすには、見通しが立つことが大切になります。たとえば、審美歯科の領域では、コンプレックスをもつ患者さんへ写真や映像などの視覚的なアプローチで比較的簡単に治療後の見通しをもってもらえます。しかし「食べられない」を「食べられる」に変えるということをビジュアルのみで伝えるのはきわめて困難です。そのため医院内にキッチンを設け、嗅覚や味覚からもアプローチすることで、歯科医院は「食べる」を支えるためにあるということを実感してもらえるようにしています。これであれば、痛みがなくなったら歯科医院に来院しなくなるような患者さんにも、歯科治療の先にある「健康を維持する」ことを意識してもらえると考えています。 また、この“「おいしく食べる」実感ラボ”は医療的側面も有しています。 たとえば、摂食嚥下障害や低栄養と見込まれる患者さんが医院内の内科を受診し、内科医師が栄養指導が必要であると判断した場合、その診断に従い、医院内のキッチンで調理しながら指導を行います。このおかげで摂食嚥下障害の患者さんのためのとろみ剤の用い方など、言葉でだけでは伝えきれない注意事項も適切に指導できています。 しかし、いくらキッチンを用意し、「食べる」ことや健康の維持を目的とした治療に取り組んでいても、それが伝わらなければ意味がありません。 前述したように、当医院は以前“猪原歯科・リハビリテーション科”という名称でしたが、それを2023年10月に“猪原[食べる]総合歯科医療クリニック”に変更しました。これは、筆者が10年間、摂食嚥下に関する治療を続けてきて、「リハビリテーション」という言葉では、口腔の健康を維持するための歯科医院であると、世間に伝わりにくいとわかったためです。そこで、健康な人にもその状態を維持するために歯科医院とかかわり続けてほしいという想いを込めると同時に、「食べる」を目指した歯科治療を行い、健康を保つことが目的であるとわかりやすくするため、名称を変更しました。それにともない、ホームページもリニューアルしています。 以上の取り組みのように、まずは、当医院のことを広く知ってもらい、来院していただくハードルを下げるということが大切になると考えています。 そして、「おいしく食べる」ための口腔健康管理を担うインフラとして、地域の方がたの暮らしに寄り添っていきたいと思います。7ポストコロナ時代に向けて、これからの口腔健康管理  巻頭特集1“「おいしく食べる」実感ラボ”での取り組み歯科医院としての新たな取り組み

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